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ハイエースの旅人

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「こんな平日に、学生さんかい?」
「いえいえ、サラリーマンですよ、有給を使ってのツーリングです。不良社員ですから」
「ほぅかほぅか!」
 冗談がウケて、内心ホっとした。本場関西の人にジョークを言うのは気を使う。
 笑いながら彼は缶ビールを飲み干すと、クーラーボックスから次のビールを取り出した。横目でボックスの中を見てみると、まだまだ沢山のビールが入っていた。旅先で補充を繰り返しているのだろうか。
「兄さんも、おかわり自由にしぃや。まだまだあるさかい」
 今度はテーブルの下からスーパーの袋を取り出した。よく見ると、僕が夕食の買出しをしたあのスーパーのレジ袋だった。彼もあそこに立ち寄ったのだろう。
「これも食べや」
 ランタンが置かれたテーブルに「柿の種」を広げた。
 その後も、次から次へと酒のおつまみを取り出すので、テーブルはいつしか御菓子の山になっていた。おつまみばかりではお腹も膨れないので、タイミングを見計らって、夕食用に買ってきた鱒寿司を取り出した。さっきは多いと思ったこいつだが、二人で食べるのには丁度良い量だ。
「よかったらこれも食べてくださいよ」
「おっ、いいねぇ」
 と、彼は鱒寿司をひとかけら手に取ると、美味しそうにほおばった。指先からごはん粒がぽろぽろとこぼれる。大分、酔っ払っているようだった。
   *
「ところで、どちらから来られたんですか?」
 他愛の無い話しでしばらく盛り上がった後、最初に聞こうと思っていた事を口にした。
 もう一時間くらい話をしているが、未だ向こうからは特にそういった話が出てこな無かったのだ。下手げに初対面の人のプライベートを聞くのはあまり趣味ではなかった。
 どんな反応が返ってくるか少し不安だったが、彼は饒舌に話し始めた。
「東北をな、一週間ほどコイツでブラブラしてきたのさ」
ハイエースのタイヤを拳でコツコツと叩く。

作品名:ハイエースの旅人 作家名:山下泰文