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ハイエースの旅人

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 夕暮れ時だった先ほどとはうって変わり、二上山万葉ラインは暗闇に包まれていた。外灯がまったくといっていいほど設置されていなかったため、ヘッドライトをハイビームに切り替えて対向車や動物の飛び出しに注意しながら登っていく。展望台にはさきほどの車はもういなかったので、導かれるようにバイクを止めた。眼下には高岡市の夜景。日が落ちるまでの装いとはまるで違う衣装を纏った市内の風景は、百万ドルとまではいかないだろうが、1万ドルくらいの価値はありそうだ。ヘルメットを脱ぎ、しばらくの間、街の声に耳を傾けた。
 駐車場へ戻ると相変わらずの静けさだった。
 何組かのキャンプ客の車とキャンプを楽しむ人達の賑やかな様子を想像していたのだが、出かける前と様子は変わっていない。キーをオフにし、エンジンの鼓動音と排気音が消されると、さらなる静寂があたりを支配した。夜になると時間の算段を間違えたライダーが駆け込みでやってくることもあるのだが、今日はどうだろうか。さすがに連休でもない平日には現れそうにないが。
 キーをふたたびオンに入れた。エンジンはかけずに、ヘッドライトの明かりを頼りにバイクを引っぱっていく。引っ張るには少々思いバイクなのが難点だ。

 フリーキャンプ場の敷地へ入ると、出発時とは違う「変化」にすぐに気がついた。
 ラジオの音。
 ランタンの光。
 そして、黒いハイエース。
 ハイエースはすべてのドアを開き、タープがかけてある状態になっていた。側にはテーブルがあり、その上にはすでに空けられたバールかなにかの缶が何本か散らばっていた。傍らにはディレクターズチェアがあり、そこには人影が見えた。背もたれの長い椅子にランタンの光が逆行になり、真っ黒いシルエットにしか見えないが、確かにそれは人影だった。驚いた、やはりあの人はキャンパーだったのか。というと、やはりあれは単なるキャンプ場の視察で、怪しい人物なんて想像は自分の思い過ごしだったのだろうか。なんともとんだ小心者だ。しかしながら、状況としては二人きりなのに変わりはない。緊張感はそのままに、息を殺しながらゆっくりとテントの方へ歩を進める…。

作品名:ハイエースの旅人 作家名:山下泰文