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ハイエースの旅人

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 美しい夕陽の中、二上山万葉ラインを下る。、眼下に望む高岡市の景色が奇麗だった。途中の展望台で車を停めて街並みを眺めているカップルがいた。地元ではそれなりのデートスポットなのだろう。途中で「彼」とすれ違うこともなかった。
 山を降り終え、ガソリンスタンドとの交差点で信号を待っていると、銭湯を教えてくれたスタンドのおじさんがこちらに気づき、軽く手を挙げてくれた。こちらもそれに答え、右手を上げて答える。信号が青へと変わると、見栄を張って深めにバイクをバンクさせて交差点を左折、一気にスロットルをまわしてその場を去った。甲高い排気音が天高く響き山々にこだました。
 バイパスを下りてすぐに、教えてもらったスーパーマーケットはあった。
 店舗の大きさもさることながら、駐車場を含めるとかなりの大きさなのが印象的だった。夕食時ということもあってか、なかなかの大入りだ。銭湯まではここから徒歩で行けるとのことだったので、バイクはひとまずここに駐車して徒歩で銭湯へ向かうことにした。
 知らない町を歩く。これは僕にとって、ツーリングに出かける醍醐味の一つだ。
 町を歩けば町の表情が見える。人の表情もだ。そんな町の中でも、最も雰囲気を味わえるのがスーパーと銭湯だと僕は思う。遠方をツーリングしている時に、僕はコンビニや全国チェーンの牛丼屋などで食事をとることは滅多にない。そんなもの地元に帰ればいくらでも食べられるからだ。せっかくはるばるツーリングに来たんだ。その地元の味が味わいたい。
 スーパーの位置を無事に確認できたので銭湯へ向かった。銭湯はスーパーから徒歩でいけるとのことだったので、バイクは置いて歩くことにした。
 教えてもらったとうり、スーパーの裏道を少し南下したところに銭湯はあった。昔ながらの銭湯の店構えに懐かしさを憶える。昔ながらとはいいつつも、よく見るとなぜか看板には「スーパー銭湯」の文字が。後からとってつけたかのように貼ってあった。いったいどういうことなのだろうと疑問に思いつつ、店内へ。
 中は外観と同じくレトロな作りで、これまた昭和の匂いを色濃く残した自動販売機が置いてあった。風呂上りの飲み物を今のうちに物色してみた。できればビールを飲みたいものだが、残念ながら今夜は『バナナ・オレ』だ。
 受付で入浴料を支払い、中に入ると驚いた、タイル作りのいたって普通の銭湯の中に、同じくタイルで作られた手作り感のあるジャグジーや、薬草風呂、そして滑り台などもあった。なんとも小洒落た趣のある『スーパー』銭湯だ。
 滑り台ではしゃぎまわる子供達。体を洗い終え、その光景をジャグジーにつかり眺めていると、見事に一人が足を滑らせて転んだ。鼻血を出しながら大泣きする少年。自分にも同じような記憶があったので、思わず笑ってしまった。
 ゆっくりとすべてのお湯を味わうこと正味一時間、今日一日の垢と疲れをしっかりと流し落とすと、銭湯を後にした。
 ツーリングといえば温泉が定番だろう。たしかに温泉も魅力的だが、こうした町営の温泉もまた面白いものだ。
 続けてスーパーで晩御飯を調達した。
 今夜の夕食は惣菜コーナーで買った手作りのオニギリとお惣菜、それに富山県の名産、鱒(マス)寿司だ。鱒寿司がけっこうな量なので、オニギリは明日の朝食のつもりで買った。2リットルのペットボトルも数本。晩酌用の缶チューハイも忘れてはいない。スーパーを出ると大きく膨れ上がった買い物袋をリアシートにネットで固定した。落としてはたまらないので、しっかりと安全確認をした後にバイクを走らせた。

作品名:ハイエースの旅人 作家名:山下泰文