ハイエースの旅人
「お、どうしたん?」
「いや、自分まだ、独身なんですが、お話しを聞いていろいろ考えさせられました。まだまだ結婚なんてできないな、なんて」
「ほうか、でも兄さん、なにも深く考えることはないで。結婚なんてシンプルやぞ。ギブアンドテイクや。わかるか? ギブアンドテイク?」
「ええ」
関西弁での英語の発音が面白かった。しかもわざとらしく英語のイントネーションで話すものだから少し笑ってしまった。すると、そこは関西人なのか、ウケた事でさらに饒舌になっていった。
「要するに、お互いが与え合い補い合うベストのパートナーを探せばいいわけやな、与えるだけ、フォローするだけの関係はアカン。失敗したくないなら、そこを見抜けるか、やで。俺みたいに飲み屋で働いてた嫁さんにベタ惚れして酔っ払った勢いでアタックしてフタ開けたらビックリやったじゃあ、遅い」
「ははは」
少しの沈黙。確かに笑い話として聞かせてくれてはいるのだが、最後の言葉を発した後の彼の表情は、少し寂しそうにも見えた。「笑うしかない」なんてよく言ったものだが、やはりそれは一時的なもので、寂しいものは寂しいはずだ。
彼は再び煙草に火を付けて、大きく一息を入れると、その後は、結婚論、人生論、はたまた旅人論。今回の旅行の話、人生経験が豊富なだけにいろいろな話しが次から次へと身振り手振りを駆使して話してくれた。元々、人の話を聞くのが好きな性格なので、どの話飽きることなく非常に楽しめた。楽しい時間は瞬く間に過ぎていった。