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恋するワルキューレ 第三部

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でもローランのガールフレンドになんてなれたら本当にステキよねえ……。
そうよ! 今日のお仕事が終わったら食事に誘ってみよう! 幕張まで来る時だってデートみたいだったし、お仕事の後だったら自然に誘えるもん。
このお仕事のお祝いって言えば、ちょっと良いお店に誘う口実にだってなるし、”fete”《お祭り》好きのローランだったら絶対乗ってくるわ! 
よーし、頑張っちゃうんだから――!

…………おい!

あら、何かしら? 何か女の人の声が聞えた様な気がするけど……。
それより今日の食事よねえーー。ローランは何を食べたいかしら?

…………おい! そこの女!

もう、やあねえ。折角、ローランとイイ処なんだから邪魔しないで。
ねえ、ローラン? 今日はお祝いだし、ちょっと美味しいものを食べましょうよ?

…………おい! おまえ聞いとるんか?

もう誰かしら? 五月蠅いわね――。もう無視よ、無視。
ローラン、フレンチだったら、そこのホテルのレストランが良いらしいの?

「こら――! そこの女、聞いとるんか――――!?」

「きゃ、きゃーーっ! お客様、な、何ですか? 一体!?」
妄想の中で裕美はローランと恋人モードに浸っていたため気付かなかったのだが、裕美はやっとその女性ながらにドスの利いた声が自分に向けられていたのだと理解した。
しかしその声の主を見て裕美は更に驚いた。
ええーー! あなたは――!?
青いロードバイクブランドのジャージに、浅黒く日焼けした肌。それにちょっとボサボサのショートヘア――。間違いない。さっきまで何度もローランと話していた女性だ。
でも何――? さっきローランと話していた時は、ポツリポツリ小声で話すだけの気の小さそうな女の人だったのに!? 本当にさっきと同じ人?
「おい、そこの女! 人が話をしていたのに、なに邪魔すんや?」
「お、お客様、大変申し訳ありませが、彼も所要がありまして――。ご質問でしたらわたしが承りますが――」
「お前なんか呼んどらんわ! ボケッ!」
 何よ、ボケッって? 一体、この人どうなってるの――?
「あ、あの……、お客様、落ち着いて下さい。わたしが説明いたしますので……」
「ふんっ! ロードバイクも知らん、アホに用はないわ!」
「だ、大丈夫です。わたしもロードバイクに乗っていますから、お客様の質問にもお答え出来ると思います」
「へっ、ホンマかいな? ロードに乗ってるなんて言ってもカッコだけやろ? お前にロードバイクの何が分かるってゆうんや! 出来るっちゅーんならこのバイクについて説明してみい!」
「わ、分かりました」 
裕美はフウ――ッと深呼吸をして気持ちを落ち着けつつ、弁護士の顔と営業スマイルを取り戻し、「それでは……」とヴィーナス・マドンの説明を始めた。
「お客様、このヴィーナス・マドンはトレックのフラッグシップ・バイク“マドン”をラコックのオリジナルデザインでペイントしたもので、鮮やかな薔薇の模様は他のロードバイクメーカーにはない――」
「トレックーー??
トレックなんて、好かんわーー! アメリカなんて世界の敵やろーー? ワイはアメリカなんて大嫌いや! それにロードバイクの伝統もあらへん。そんな国でロクなバイクが作れるかい!」
「お、お客様……。トレックのカーボン成形技術はNASAの宇宙開発機材にも用いられる最先端の技術でして、トレックのカーボンバイクの剛性はプロだけでなく、アマチュアの方からも評価が高く……」
「カーボンーー??
そんな金ばっかかかるカーボン・バイクなんて必要ないわーー! バイクはフレームで走るんやないでーー。ローディーの血と肉、それとチェーンとギアで走るんやーー! お前その辺を分かっとるんかいーー!?」
「お、お客様……。えーー、もちろん承知しております。こちらのヴィーナス・マドンはフレームだけでなく、シマノの最高級コンポーネント“デュラエース”を組み込んでおり、その軽量かつ高い剛性のクランクによって乗り手の力を余すことなく伝え……」
「デュラエースーー??
そんなコンポの違いで走る速さは変わらんわーー! 金の無駄や無駄! そうゆう事を分かっとらんシロウトが見栄でデュラなんか買いたがるんや。重さを気にするんやったら、減量してお前の余計な胸の脂肪を削り取ったらんかい! アスリートに胸はいらんわーー!」
 その女は理不尽な怒りを顕わにしながら、裕美の豊かな胸をビシッと指差した。
きゃあーー! 何よこの人――!? クレイジーだわーーっ!
 幾らなんでもバイクの軽量化の代わりに“胸を削れなんて”無茶振りもいい処だ。
裕美も思わず手で胸を隠してしまう。ボディラインにフィットするロードバイクのジャージは胸の形も顕わになり易く、たとえ同性からと言えど、回りに男の人だって居るのに、指まで刺され恥かしい事この上ない。
「そ、そんな……、お客様……、お気持ちは分かりますけど……」
「ボケーー! オマエにワイの何が分かるって言うんやーー!?」
「分かります、分かります! もちろん分かっております――!」
裕美はそう弁解をしつつ、ついその女性のAのサイズでも余りそうな痩せこけた胸に視線を向けてしまった。このサイズの胸は裕美も見たことがある。マラソンのテレビ中継で良く見る女性ランナー特有のアレだ……。
「あ…………」
裕美の視線に気付いた彼女との間に、非常に気マズイ空気が流れた……。
「おんどりゃああーーー! 人の胸を見て何を考えてたんやーー!!」
「きゃああーー! 止めてくださーーい! そんなつもりじゃなかったんですーー!」
「胸がないからって、人の事見下しおってーー! スケベな男と同じやん、セクハラやーー!」
「あなたこそセクハラよーー! 言い掛りよーー! このバイクに興味があったんじゃないの――?」
「ボケエエ! こんなエロジャージやバイク興味ある訳ないやろーー! ワシが興味あったんわなーー、あのイケメンにな――! 
…………………………………………。
「ちょっと、お客様、何ですの? あなたも当社の商品ではなく、ウチ社員が目当てでしたの?」
「あ、ああ………………」
「やあねえ、ウチのバイクに興味があるなんて言っていたの全部嘘って訳ね? そこまでしてローランに近付きたかったんだ?」
「う、うるさい、うるさーーい!! 別に男になんか興味はないわ! 男なんて……、男なんてなあ……」
「お客様、もっと女の子らしくして素直になった方が良いと思いますわ。でないと男の人だって誰も相手にもしてくれませんもの。もっともローランはあなたみたいな野蛮な女の人は相手にしませんけど――」
「何が野蛮や、ふざけるな! ワシはお前みたいに男に媚びを売っていやらしく誘うマネはせえへんわ!」
「いやらしいだなんて、とんでもありませんわ。あくまで女性の美と優しさで男の人に愛情を伝えているんです」
「だったら何や? その女が裸でいるジャージは――!? お前こそそんなエロジャージで男を誘いおってええーー? セクハラや、女性差別や!」