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恋するワルキューレ 第三部

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舞は驚きの余り立ち上がることさえ出来ない。車に轢かれかけた恐怖で、顔も青ざめている。
「馬鹿ヤロウ! 死ぬかと思ったじゃねーか! 下手なくせに公道を走るんじゃねえー!!」
茫然とする舞に向って、落車した男が大声で怒鳴り始めた。
興奮の余り、丸眼鏡の奥の目が完全に血走っている。もはや正常な判断が出来る状態ではない!
しかも落車した男だけではない。一緒に走っていたオジサン達も、舞を囲んで騒ぎ始めたのだ。
「この下手くそ! なんでお前みたいなシロウトが公道を走ってるんだよ!?」
「そうだよ! エンゾさんが死ぬ所だったじゃねーか!」
「怪我をしたら、どう責任取るつもりなんだよ!?」
「そんな……。すいません、わたし……」
「馬鹿ヤロウ! すいませんで済むと思ってんのかよ!」
舞は小声で謝るが、相手は全く容赦することはない
激高した男達に囲まれ脅されて、舞は逃げることも出来ず、小さな身体を震わせることしか出来なかった。
「舞ー! 大丈夫? 怪我はしていない?」
 事故に気付いた裕美がバイクを捨てて急いで駆け付けた。地面に倒れ込んだままの舞を抱き起こす。
「怖かったのね? もう平気よ、大丈夫だからね」
 裕美は舞の小さな背中を抱きしめ、安心させようと声をかけた。
幸い、出血なども見られず大きな怪我はないようだ。でも余程怖かったのだろう。舞の身体は小さく震えていた。
「すいませんでした。みなさん、怪我はしてませんか?
 でも――、一体どうしたんですか? みんなで舞を一方的に責め立てるなんて!?」
「どうしたも、こうしたもねえよ! その女のお陰で、エンゾさんが落車したんだよ!」
「危ねーんだよ、お前ら! ろくにロードバイクにも乗れない下手糞がー!」
「チンタラ車道を走ってるんじゃねーよ! 邪魔なんだよ!」
「ちょっと、何よ、あなた達――?」
 余りの一方的な暴言に、裕美も我慢できなかった!
 裕美も事故の原因は分からなかったが、路上の事故でどちらかが一方的に悪いということはない。増してやロードバイクがトレインを組んだ中での事故だ。その男達にも責任があるはずだ!
 それに何よ!? 女の子一人を大勢の男が寄って集って苛めるなんて! 許せないわ!
「あなた達、いい加減にしなさい! そんな一方的に他人のせいにして! あなた達にも責任があるはずよ!」
「その女が突然ブレーキを掛けたんだよ。お陰でこっちは車に轢かれそうになったんだよ! 俺達を殺す気か!」
「センパイ、ごめんなさい……。後ろから大声を出されて、わたしびっくりして……」
「裕美さん! 一体どうしたんすか?」
「舞さん、怪我はしてないっすよね?」
先頭を走っていたテルとユタも駆けつけて来た。その男達の険悪な雰囲気を察知し、男達の間に入って争いを止めさせようとする。
「おいおい、いくら事故でも怪我をした訳じゃないんだ。そんな言い方ないだろ、止めろよ!」
「ふざけんなよ! その女が悪いんだよ! 俺達の進路を塞ぎやがって!」
「遅過ぎて邪魔なんだよ! まったくその女も『トレック』みたいなシロウト丸出しのバイクなんか乗って恥かしいったらないぜ」
「な、何だよ、こいつら……?」
「女の子一人に、全部責任を押し付けようってのか?」
4人のいい歳をした男達が、女の子一人を罵倒しているのだ。幾ら事故でこちらに原因があるとしても許せるものではない!
「ふざけるんじゃねーぞ! テメエら、何様のつもりだよ!? 遅いからって人を馬鹿にするなんて走る資格がないのはアマエらだろ!」
「それにシロウトはどっちだよ!? 何の声も掛けずに後ろに付く奴がいるかよ! ヘルメットも被ってないし、何考えてんだ!」
「ちょっと、テル君、ユタ君! ケンカはダメよっ!」
今にも殴りかかりそうな勢いの二人を、裕美はジャージを掴んで制止した。裕美も興奮してケンカを売ってしまったが、テルやユタまで巻き込んでは本当に乱闘になってしまう。
「二人ともケンカだけはダメよ! 分かってるでしょ!? アイドルが相手にケガなんてさせたら、あなた達どうするの!? 大変なことになるわよ!」
「裕美さん! だからって、こんな奴ら許せますか!?」
「そうですよ! こんなローディーの風上にも置けない奴らは、俺は我慢できないっすよ!」
「テル君、ユタ君、ダメです……。わたしが謝りますから……」
 舞も座り込んだまま、二人のジャージを掴み止めようとする。
「舞さんが何て言ったって、俺たちは許せませんよ!」
「そうです! 下がってて下さい!」
「裕美センパイ……。ごめんなさい、私のせいで……」
あの舞が泣きそうになっている。
無理もない。初めて事故に合った上に、男4人にここまで責められているのだ。
しかもテルとユタまだケンカに巻き込んだ上、止めることも出来ない。
裕美だって舞の立場なら泣いているに違いない。
でも、どうすればいいの!?
テル君にもユタ君にも絶対ケンカなんかさせれられないし、二人がケンカしなくたって、あのオジサン達が暴れ出したらどうすれば良いの?
悔しいけど、わたしが謝ってこの場を収めるしかないわ。でもあのオジサン達の間に飛び込んで行くなんて……。
怖がってちゃダメよ、裕美! わたしが行かなきゃ!!
「すいませんでした……。わたしたちが……」
 ところが――、
裕美が意を決して止めようとした言い争いも、いつの間にか中断されていた。
不思議なことにテルとユタが驚いたような顔をして、お互いに顔を見合わせている。
 …………。
「なあ、テル? あれって、もしかして……」
「ああ、アイツだ。間違いないねえ……」
「アッハハハ! おまえら、今頃気づいたのかよ?」
 驚くテルとユタの顔を見て、オジサン達が満足そうに高笑いをしながら、尊大な態度で睨みつけてきた。
「この方こそがなあ、ロードバイク革命家『エンゾ相模川』様だよ!」
「自転車雑誌「バイシクル・クラブ』にも出ているあのお方さ!」
「元全日本チャンピオンの森春幸師匠だって、エンゾさんの実力を認める程なんだよ。お前らはそんな人に文句をつけるのかよ?」
 GIOSと書かれた青いジャージを着たその無精髭の男、エンゾ相模川は、周りのオジサン達が持ち上げれて満足そうにうなずきながら、仁王立ちで裕美や舞を見下ろしていた。
…………。
「裕美さん、こいつらの事は無視して帰りますよ!」
「テル君、あの人のこと知っているの?」
「ええ、この『エンゾ相模川』って奴は雑誌とかで、自分の気に入らないメーカーやショップを貶める記事を書いたりするんで、俺達の間でも評判の悪い男なんですよ」
「だけど、そんなメーカーを叩く記事とか誇張的な歌い文句に騙される人が多いんです。雑誌に載ったりして有名だからって、そんえ初心者を騙して高いバイクを売りつけたりしてね。周りのオジサンは騙された信者って奴です」
「ああ、本当に最低だな。ちょっと有名になったからってカン違いしてさ。殴っちまわないうちに帰ろうぜ!」
「ふん、何だ逃げるのかよ。エンゾさんにビビッたのかよ。」
「まあ、エンゾさんに敵う奴なんかいないけどなあ」
「ハッハハハーー!」