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恋するワルキューレ 第三部

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会場からは早くも失望の声が漏れ始めた。
「何だよ、この黒ジャージは……」
「さっきのヴィーナスのジャージと比べると随分地味よね……」
「折角、期待してたのに何なのこれは――?」
しかしそんな観客の不満を無視する様に、そのモデルは表情を変えることもなく、ゆっくりとした足取りで堂々とステージの中央へ歩き始める。
そしてモデルが歩を進める毎、会場からは驚きの声がさざ波にの様に広がっていった――。
「ねえ、あれ何? あのジャージかなり光ってるけど――?」
「あれってゴールドよねえ? 黒地にゴールドって悪くないわ――」
「でもあのゴールドの模様、どこかで見たことない?」
「わたし前に映画で見たことがあるわ。確かフランス映画の――」

「「そうよ! “ファム・ファタール”!」」

まず女性誌の編集者やカメラマン達からそのジャージの“正体”に気付き声を上げた。
フレンチ・サスペンス映画『ファム・ファタール』に出ていた380カラットのダイヤをあしらった黄金のビスチェがそこにあったからだ!
妖しく輝く金色の蛇が、女性のヒップからウェスト、胸の膨らみにかけて艶かしく絡み付き、モデルの細くくびれたボディラインを浮かび上がらせる。さらに蛇の胴体は女性の双丘に螺旋状に絡み付き胸の膨らみを強調させ、最後には蛇の頭が小さな女性の胸の蕾を隠すという、エロティックかつゴージャスなビスチェが、ロードバイクのジャージとして再現されていたからだ。
そしてそのジャージに描かれているのは黄金の蛇だけではない。肩ややヒップには瑠璃色や翡翠の色を纏った蝶が輝き、耽美的とも言える妖しさを漂わせ、そしてサイドには”Femme Fatale”《ファム・ファタール》のロゴが白地であしらわれジャージにアクセントを与えている。
《ファム・ファタール》のエロティックなビスチェを身に付けた“魔性の女”に、男達が彼女の虜にならないはずがない。
そして何より男達の欲望を誘うのは、そのモデルが未だに素顔を明かさないことだ。
半ば裸体を晒しながらもアイウェアで素顔を隠す様は、まるでヴェールで顔を隠す中世ハーレムの美女を彷彿とさせ、真紅のルージュが男達の想像力を一層と掻き立てる!
まさに『魔性の女』――。
その魔性の女に魅せられた男達が早速声を漏らす。
「すげえ……。こんなジャージってアリかよ?」
「黒のジャージにゴールドかよ……。えらいゴージャスじゃん……。」
「蛇が胸に絡んで……、エロい……、ヤバイ……」
 そのモデルがステージの中央に進み美穂の前に立つと、それまでヴィーナスジャージを着ていた他のモデル達がジャージとスカートを外し、その下に隠された“ファム・ファタール”が次々と観客の目に飛び込む!
「おおーー! すげええーー!!」
「こんなジャージ……、クレイジーだ!」
それまでの冷淡な反応が一変し、会場から歓声とフラッシュが一斉に爆発する!
“彼”も他のカメラマンに負けてはいられない。ここぞとばかりシャッターを押し、『魔性の女達』をフィルムに収めた。
 パシャ、パシャ、パシャ――!
 その時先頭の“彼女”の視線が“彼”へと向けられた。アイウェアを付けたままで彼女の目は隠れたままだ。しかし彼女はこちらを向いたまま目を逸らさない。
“彼女”が自分を見ている――。
“彼”はシャッターチャンスとばかりに画面をズームさせ彼女を撮らえようとしたその時、彼女がついにアイウェアに手を掛けた――。
 アイウェアの下から現れたのは黒真珠の様に輝く漆黒の瞳。
官能的なジャージとは対照的な小さく理知的な口元。そして長い亜麻色の髪――。
 ええっ!? “彼”も思わず声を上げた。
 
「――裕美さん――!?」

 ツバサもまさかの裕美のモデル姿に驚きを顕わにする。
「て、店長!? あれ裕美さんじゃないですか!? 一体、どうなってるんですか? 美穂さんどころか裕美さんまで――?」
「俺も二人から何も聞いてない! しかもあんなジャージを着てるなんて――!?」
 二人は顔を見合わせて驚いた。弁護士として理知的なイメージが売りの裕美が、まさかモデルに! しかもあんなエロティックなジャージを着てステージに上がるなんて――!? 
しかし観客やカメラマンの注目を裕美が一身に浴びているの事実だ。このファム・ファタールのジャージを撮らなくては、クライアントにもうカメラマンとは名乗れなくなる。
「ツバサ! とにかく撮るぞ!」
「ウイ! もちろんです!」
 パシャ、パシャ! パシャ、パシャ――!
 彼はフラッシュを焚きシャッターを連写すると、裕美はまるで彼を待っていたかの様次々とポージングを決める!
時に胸の膨らみと金のビスチェを見せ付ける様に胸を張り、時に身体を捻り細いボディラインとと瑠璃色の蝶と見せ、時にその亜麻色の髪を揺らし颯爽とした姿を見せる。そして裕美がポーズを変える都度、会場の男達からオオーーと溜め息に似た声が漏れた。
「あのモデル、良いなあ。超エロいよ……」
「おお、エリカや美穂にも負けてないじゃん……」
 既に魔性の女は男達の心を完全に捉えていた。しかもそのジャージが魅了するのは男達だけでない。
裕美を写すフラッシュの光はゴールドのビスチェとフェイクダイヤに反射し、ジャージ自体が光りを放つかの様に美しく輝いている。この女の性を売り物にするかの様なジャージは女性が最も嫌うものだろう。だがその宝石の輝きはそんな女の嫉妬や嫌悪感さえも消し去っていた。“魔性の女”は女性達の心も虜にし始めていたのだ。
今や会場にいる全ての男と女達の心は、裕美の手の中にある―――。
そんな会場の雰囲気が変わりつつあったその時、魔性の女の更なる美しさを見せるべく、裕美は長い亜麻色を髪を肩にたくし上げ、そのジャージの背面を観客に見せた――。
同時に、会場から驚きの声が広がる!
「あの背中のって!? ブロンドヘアー!?」
「金髪!? スゴいキレイじゃん!」
「ジャージに金髪って、そんなのってあり!?」
 裕美の背中で輝くは、まばゆい程に鮮烈なブロンドヘアー!
 腰まで伸びる長く豊かな金髪に会場の誰もが目を奪われた!
ジャージにペイントされた金色ではあるが、ゴールドの光沢にも微妙な濃淡と影がありウェーブのかかった金髪の立体感が見事に表現され、遠目からは本物のブロンドヘアーと区別がつかない。まるで『キューティー・ブロンド』のヒロイン“エル・ウッズ”並みの鮮やかなシャイニー・ブロンドだ。
同時に裕美の後ろに並ぶモデル達も一斉にその背中のブロンドヘアーを観客に見せ付ける。
ステージに居並ぶ溢れんばかりの金髪と美女らを見て、会場の男達が一気にヒートアップした!
「オオオオーーー! 金髪――!!」
「最高ーー! 俺も絶対彼女に着せるーー!」
「お姉さーん! 結婚してえーー!」
会場に響く声は男達からだけではなかった。女性からも称賛の声が巻き起こった。
「かっこいい! ステキーー!」
「すごい! ゴージャス!」
“Excellent!”《エクセラン!》 “Super!”《シュペーール!》
会場からのあちこちから声援が裕美に届けられる。
 そんな中、一人の男の声が会場に響いた――。

 “裕美さ――ん!!”