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恋するワルキューレ 第三部

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「……そりゃあ、裕美さんだってエリカさんだって悪くないと思うさ……。――でも実際付き合うとなったらどうする? 俺だってサラリーマンじゃないし、店の経営だってあるんだ。どうしても仕事を優先せざるを得ないから会う時間だってない。それに俺だって所詮、趣味の世界で食ってる自由人だしな……。本当に付き合ってやっていけるかと思うよ。真面目に付き合ったとして――、ツバサだったらやっていけるのか?」
「……それはまあ、そうですよねえ……」
 ツバサはも思わず口ごもってしまった。今まで散々冷やかした分、真面目に問い詰められるとバツが悪い。
「彼女とか結婚とか、俺が真面目に考えるなんてありえないっすからねーー。俺も夢見てチャリ屋なんかやってるクチですからねえ……。ロードレースやって、その合間にチャリを売ってって感じだし……」
「はああ……。お前、一番結婚に向かないタイプだな。尽くしてくれる女の子が良いだなんてのが良く分かるよ――」
「ハハハーー、まあ俺も夢見ちゃってる野郎なもんでーー。なまじっかフリーターなんかより始末が悪いですよね。確かに女が一番結婚したくないタイプの男ですよ。いやーー、ぶっちゃけな話、痛い男ですよねーー?」
「ふう……だったら俺の気持ちだって分かるだろ? エリカさんも仕事の相手だし、裕美さんはお客様だ。二人ともただ気晴らしに付き合うって訳にもいかない。真面目に考えれば、尚更色々考えるさ……」
「そうですよねえ……。俺達が夢を持ったまま、将来もずっと一緒にやっていけるかなんて……。かなり微妙ですよねえーー。今でさえ仕事も忙しくて会えない位なのにーー」
「それに仮に真面目に付き合ったとしたって、エリカさんや裕美さんも仕事があるしそれを優先するだろ? でも俺だって自分のやりたいこともあるし、店の経営とかやらなきゃいけないこともあるんだ。正直、難しいんじゃないか?って思うよ」
「うーーん、そうですよねえーーーー」
 ツバサも悩まし気な顔をしながら、“彼”の言葉に頷かざるを得なかった。単に性格的な相性の問題だけなら、ツバサもプライドの高いエリカや裕美を上手くあしらう自信はある。しかし互いの仕事やロードバイクを含めた生活まで考えるとなると話は別だ。ツバサにとってロードバイクは趣味であり仕事である。“趣味”を捨ては生活が成り立たない。
「ハハハ……。こうなりゃバイクを捨てて二人のヒモになるしかないっすねーー?」
「ヒモなんて、エリカさんも裕美さんも許す訳ないだろ?」
「ハハハ……。そうですよねえ……。あの二人の性格からして――」
「……まあ少なくとも二人のことを『プライドが高い』とか、『ワガママだ』なんて言えた義理じゃないさ……。真面目に付き合うとか言うなら、俺らもロードレースや写真みたいな“趣味”を止めなきゃならないかもな――」
「ロードレースを止めるですかあ…………。
…………それはキツイですよねえ…………。
 …………俺ってやっぱり結婚は無理かなあ…………」
ツバサでさえも将来や結婚などのことを考えるとかなり憂鬱な気分になる。ただし世間一般で言われる様ににフリーターの様に将来の仕事や収入が不安という理由ではない。
ツバサだって“趣味”とは言いつつも『ワルキューレ』で真面目に働いているし、給料もフリーターを優に上回る位は稼いでいる。それに将来は独立して店を構えるということも十分に可能だ。
しかしそれもロードバイクを“仕事”として選んでの話――。
当然、バイクの販売や経営を優先する必要があり、“趣味”として走る時間は確実に失われるしレースに出場する機会は減るだろう。
ましてや結婚となり家庭を考えるようになれば、趣味としてのロードバイクを楽しむ時間はまず無くなると言って良い。“自由人”のツバサとしては考えられないことだ。
ツバサはそんな自分の将来についてしばらく考え込んだ後、“彼”に前から聞こうと思っていたことを尋ねてみた。
「店長、どうしてサラリーマン辞めてウチの店の店長なんかになったんですか? 前に居た会社ってJTBでしたっけ? 超一流の旅行代理店じゃないっすか? 給料だってあっちの方が全然良かったでしょ?」
「……別に大した理由じゃないさ……」
 “彼”はしばしの沈黙の後、少し小さな声で答えた。
「店長をやってくれって言われたからな……。バイクの整備だけじゃなくて、店の経理とかツアーの企画とかが出来る人を探してるって――。
それなら会社を止めてもそれなりにやって行けるって思ってさ……。そりゃあ前からロードバイクで生活出来ればって思ってたけど現実はそうはいかないだろ? だから就職はしたけどやっぱり未練はあったからな……。
それに会社の仕事も色々あって悩んでた処もあったし……。まあ現実半分、夢半分って感じだよ……。あまり自慢出来る話でもないさ……」
「ハッハハーー! 店長、マジメですねえーー!! でもらしいですよ!? 店長なんて、俺みたいに100%フリーダムって生き方も無理でしょ? 俺なんか100%趣味でこの仕事やっちゃってますからーー!」
「ハハハ……、なんかツバサらしいな……」
 そんな風に自分の悩みを笑って吹き飛ばしてしまうツバサに感謝しながら“彼”も一緒に笑みを漏らした。
「まあ嬉しいじゃないですか? こんな俺達でも付き合ってくれるって言う女の子がいるんですから。店長も真面目に考えてみたらどうですか? 上手く行くかどうかは別にして?」
「そうだな……。上手く行くかは分からないけどな……」
「そんな弱気になることないですって! まあ店長なら俺なんかと違って彼女作ってもやってけますよ?」
「サンキュー、ツバサ……」
「そう言えば店長? 結局あの後、裕美さんとはどうなったんですか?」
「実はあの後、何度か電話したんだけどな……。忙しいからまた後でって言われたままだよ……」
「あちゃーー、やっぱマズったですかねーー? いくら店長も知らなかったとは言え、エリカさんがあのジャージを着ちゃうんですから――。裕美さんにしちゃあ、店長に尽くしたあげく捨てられたみたいなもんですからねえ……?」
「……“捨てた”だなんて人聞きの悪いこと言うなよ。エリカさんがモデルをやるなんて俺だって知らなかったんだ。裕美さんだって、それは分かってくれたさ。『頑張って』って言ってくれたしな……」
「でもそれって店長のこと気遣って、そう言って呉れたんじゃないですか? 店長とウチの店にとっちゃあ、トレックにジャージを提供できるだなんて、かなりでかいチャンスですからねーー?」
「……………………
俺も裕美さんが気を使ってくれたんだと思うよ……。裕美さんには申し訳ないって思ってる……。だから会いたいとは思ってるんだけどな……」
「はああ……。何か俺まで申し訳ない気持ちになっちゃいましたよ……。裕美さん、あんなに真剣になってジャージのデザインを手伝ってくれたのに……。
裕美さん、もう店に顔出してくれないんですかね……? ちょっと寂しいっすよね?」
「確かに寂しいよな……」
 二人の間に微妙な沈黙の時間が流れた。“彼”もツバサも仕事をする手は完全に止まっている。