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恋するワルキューレ 第三部

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「ウソじゃありませんけど――、それはあくまで『似合ってる』って女性を褒めてるだけで、男の人が本当に喜んでいる訳じゃありませんよね? 似合ってると言われて喜ぶのは女性だけです。でもそれじゃダメなんです。女の自己満足にしか過ぎません! 男の人に『嬉しいよ』って言ってもらわなきゃダメなんです!」
「あの……、でも舞の言いたいことも分かるけど、“かわいい”だけじゃダメなの……? 舞も言ってたじゃない。『かわいい女を嫌いな男の人はいない』って?」
「そこもセンパイの思い違いですよーー! センパイの言う“カワイイ”と、男の人の言う“可愛い”は意味が違いますよ?」
「えっ……?」
「よく女の子が女の子に対して“カワイイ”と言いますけど、それはファッションが“女の子らしい”、“フェミニン”って意味ですよね?」
「そうだけど……、男の人なら可愛いフェミニンな服が好きなんじゃないの?」
「センパイ、そこが違ってるんです! 男の人の言う“可愛さ”って言うのは、ファッションじゃありませんよ。性格のことを言っているんです!」
「性格――?」
「そうです! 男の人の言う“可愛さ”は“従順”な性格のことなんです!
美しく自分に従順な女性!
優しく男に人に尽くす女性!
小さくか弱く、自分を頼ってくれる女性!
自分の期待通りの事をしてくれる女性!
それこそが男性の理想の女性像で、“可愛い女の子”なんです。ファッションで可愛さを表現する目的は“従順”な性格をアピールするためなんですよ? 単にフェミニンな服を着れば良い訳じゃないんです」
「そんな舞……。そんなの無理に決まってるじゃない……。アニメやゲームじゃないんだから、そんな都合の良い女の人になれるはずないわよ……」
「でも女性だって自分に都合の良い男性を選ぶじゃないですか? よく女の子が『優しい男の人が好き』って言いますけど、それって男の人の言う“可愛い女の子”と同じじゃないですか? センパイは違うんですか――?」
 舞はその大きな瞳で不思議な程まっすぐに裕美を見つめていた。
別に裕美を問い詰めている訳でもない。裕美の言う事が理解できず、ただ不思議そうに聞いてくるのだから裕美も逃げ場がない。
「それは……あのぉ……舞の言う通りなんだけど……。 でも何でも男の人の望む通りになんて出来るはずないじゃない? どうすれば良いのよ……?」
「そんなに難しく考えることはありまんよ。たった一つだけ男の人の願いを叶えてあげれば良いんです。
男の人が女性に対して望むものは何か分かりますかーー??」
「……………………」
 裕美はもう舞の言わんとすることが分かった。
 男の人が望むものは――、やっぱりアレよね……。
 裕美は顔を真っ赤にしながら、それを隠す様にうつむいてしまった。
「女性に求める“従順さ”は男の人の性的な欲求の裏返しなんですよ。ですから男の人に好かれる為には性的なアピールがなくちゃダメなんです。そうなると何が必要か分かりますよねーー?」
「……………………」
 裕美は仕方なく、コク、コクとうなずかざるを得なかった。
「舞、分かったわ……。でも……下着を直接彼に見せる訳にはいかないじゃない? どうすれば良いの……?」
「もちろん下着を見せて歩いてたら、ただの痴女か変態さんになっちゃいますからアウトですよ。下着を直接見せるのは女が心と体を開く時だけで良いんです。下着は隠して見せるものですよーー」
「隠して見せる? そんなとこ出来る訳ないじゃない? 何かの謎かけなの?」
 裕美は舞の言う事が分からず言葉に窮してしまう。
 逆に舞は、どうしてそんな事を聞かれるのか、さも心外であるかの様に戸惑うのだ。
「えーー? わたし何か変なことを言いましたか――?」
「だって、下着を隠して見せるなんて――。隠したら見えなくなっちゃうじゃない? まあ元々下着は見せ物じゃないけど……」
「えっ? “隠して見せるなんて”別に簡単じゃないですか?
 ――薄着をすれば良いんです――。
 薄着をすれば下着を隠しつつも見せることが出来ますし、女の肌もさり気なく自然な形で見せられるじゃないですか? その方が男の人も喜びますよーー!」
 成程――。
 あまりに単純な仕掛けだが、限りなく女のファッションと男の心情を表す真理に裕美も思わず納得する。
「どんなブランドでも肌を露出させる服があるのはそうゆうことです。女性が女性にアピールするためものか、男性にアピールするためものかは肌の露出度合いで決まるんです。どんな高級ブランドだって例外じゃありませんよ」
 舞の言葉に裕美も思わずウンウンと頷かざると得なかった。“プラダ”だってメリル・ストリープが着る様なバリッバリのキャリアウーマン風のプレタポルテもあれば、胸元の空いたエレガントなオートクチュール・ドレスもある。その違いは肩を露出しているかいないか位の違いだが、その差は果てしなく大きい。見せる相手が全く異なるのだから――。
「仮に、センパイがファッションを変えてもそれが彼の好みに合うか分かりませんし、派手な男の人を誘う様なファッションをしたら彼も引いちゃうかもですよ。先輩の知性とエレガンスさで築いたイメージが台無しになっちゃいます。
ですから先輩は服は何も買う必要はないんです。今までと全く同じファッションで良いんです。敢えて違うとすれば、今までよりもちょっと薄い生地のブラウスを着れば良いんです。仕事が終わればブラウスのボタンを一つ外せば良いんです。
そうやってさり気なく女の下着を見せることで、ロワ・ヴィトンのブランドのイメージのままで、女の魅力を上げられますよーー!」
 舞……、あなた凄過ぎるわ……。
裕美は舞の完璧とも言える女の武器の使い方に畏れおののきはしたが、彼女の語る男女の“真理”には一分の隙もなく反論の余地も一切ない。
裕美はもはや首を縦に振らざるを得なかった……。
「分かったわ……。下着を買いましょう……」

「センパイ、こんなの如何ですか?」
まず舞が勧めてきたのは無地のシンプルなデザインだが、派手なショッキング・ピンクが眩しい、シルクの光沢が輝くブラとショーツだ。
「ちょっと濃いめのピンクですけど、白のブラウス越しなら桜色に見えますから可愛いですよーー」
「そんなーー、舞? それじゃあ、ブラだけじゃなく胸の形もボディラインも丸見えになっちゃうじゃないーー! 恥かしいわよーー!」

次に舞が勧めるのは、白地にルージュやピンク、オレンジ色の花々が彩られた可愛いブラとショーツ、キャミソールのセットだ。
「やっぱり下着は男の人に見て貰わないと意味がないですからね。この可愛いタイプのデザインなら胸元からブラをチラ見せしても恥かしくないと思うんです。カジュアルなら肩から露出させて大胆に見せる手もありますからーー。あっと、もちろん彼に直接見せても良いんですよ――」
「そんな舞……。これを彼に見て貰うなんて……」
「平気ですよ、センパイ。恥かしいなら、このキャミを着れば良いじゃないですか? これならブラは隠せますよ」
「舞、そうゆう問題じゃないでしょうーー!」