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恋するワルキューレ 第三部

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「フンっ! しょせんモデルなんて化粧と写真写りがちょっと良いだけでしょ! 旬を過ぎたら“スーパーのチラシ”程度の仕事しかないじゃない。これがホントの“スーパーモデル”ね。あなたにとっても似合ってるわーー」
「ス、“スーパーのチラシ”!?」
「あーら、将来の自分の姿が目に浮かんじゃったかしら? 『昔は良かったーー』なんて言ってる女の方が惨めだわ。でも現実と向き合うことは大切よーー」
「何よ! そっちこそ旬も華もない女じゃない。あんたじゃモデルなんか出来ないでしょ!」
「ご心配なく! わたしだって伊達にロワ・ヴィトンの社員じゃありません。モデルだって何度か務め上げてますからーー! それだって店長さんが写真を撮ってくれたんですからねーー!」
「“店長さん”……? それって滝澤君のこと?」
「そうよ! 店長さんなら、わたしの……」
ああっ、しまった――。
裕美は思わずハッとした顔をする。
「ふーん……。“店長さん”なんて随分よそよそしい呼び方じゃない? あなた滝澤君ともしかしたら付き合ってると思ったんだけど――。
あなたと滝澤君の関係がどの程度のものか十分わかったわ――」
うっ、と裕美の息が詰まる。
「まあ、そんなことだろうと思ってたけど。滝澤君も付き合っている彼女がいる感じでもなかったし――。まあ滝澤君のことは諦めることね。わたしがちゃーんと貰ってあげるから」
フフン、とエリカが勝ち誇った様な顔で裕美を見下した。
「な、何よ……。確かに彼と付き合ってるって訳じゃないけど、別にあなただって店長さんと付き合ってる訳じゃないでしょ……?」
「まあー、そうだけどねえーー。これからわたしのモノにしてあげるから見てなさい。この前はあんたに邪魔にされたけど、今度はそうはいないからね」
「何よ! 店長さんをモノみたいに! 遊びで盗ろうだなんてわたしが許さないわ! それに彼だってそんな火遊びに付き合う様な人じゃないんだから!」
「あらーー、わたし結構本気よ。彼みたいなアスリートってわたしのタイプだし――」
「白々しいわ! そんな取って付けた様な嘘なんか誰も信じませんよーー! どう考えたってお遊びじゃない。大体、アスリートならどうして店長さんなのよ? あなた最近売れてるんだから、もっと本格的なプロ野球選手とかいるじゃない?」
「あんた、マジで冗談止めてくれるーー! プロ野球選手となんかと結婚したら、それこそ人生の墓場よ。ああゆう人達と結婚したら、自分の生活を全部ダンナの為に使わなくちゃなるんだからーー」
 エリカは心底嫌そうな顔で裕美の言葉を否定した。
「プロ野球選手の男なんかと結婚したら、食事の世話とか体調管理、遠征や合宿、試合の準備、そうゆう裏方の仕事だけをやらされるのよ。それがプロ選手の妻の役割だってね――。
それけじゃないわ。たとえわたしがどんなに頑張ったってダンナの調子が悪るけりゃ、わたしも同罪。こっちまでバッシングされるのよ。あなただったら、そんな生活が欲しいの? 自分の仕事を捨ててまでして――」
「それは……、わたしは結婚したって仕事したいし……」
「わたしもそれだけは同意見だわ。今モデルの仕事だって増えてるし、このロワ・ヴィトンみたいな仕事だって入ってる。それを棒に振るだなんて絶対イヤよ! 実際、プロ野球選手やサッカー選手と結婚する女を見なさいよ。大抵は売れなくなったモデルか旬の過ぎたオバサンのアナウンサーとか下り坂の女ばかりじゃない。よく結婚して幸せーなんて言っているけど、わたし達に言わせれば墜ちた鳥と同じね。次にカメラのフラッシュを浴びるのは離婚会見の時だけ――。本当、見てて悲しくなるわ――」
「じゃあ、何……? あなたが仕事をするために“都合の良い男”が店長さんってことなの……? そんな理由であなた男の人を選ぶの?」
「何よ? それのどこが悪いって言うの!? 金目当てで男と付き合うより100倍マシじゃない? プロ野球選手なんて学力だって実際高校生以下だし、言動もファッションセンスも大阪か広島のヤクザみたいな人ばっかりよ。汗臭い体育会系で美的センスはゼロだもん。あんたそんなセンスや頭の悪い男と付き合える?」
「それはお互いに愛情さえあれば……」
「そんな愛情なんて高が知れてるわ! この世界で負けて夢破れた女が自分の器を悟って結婚するのよ。あなたそんな結婚したいと思う?」
「わたしは……、そんな中途半端な結婚なんてするつもりないもん……」
「ほーら。やっぱ、あんただってそんな結婚イヤなんじゃなーい」
「………………」
「いい? 自分で“持ってる”女が欲しいのは、センスの合う男! 顔の良い男! 何より自分の夢を否定しない男よ! そう考えれば滝澤君はかなりイイ線いってるわ。 そりゃお金を持ってる訳じゃないけど、それなりに頭も良いから将来的にもまあまあ見込みがありそうだし、何よりわたしの仕事を否定することなんてしない!
あんたもそうゆうつもりで彼に目を付けたんじゃないの?」
「………………」
 裕美は思わずエリカから視線を逸らしてしまった。“打算”で男を選ぶことに引け目を感じてしまったからだ。
裕美も“彼”を気になる気持ちが膨らむだけで、それが実際何なのか考えたこともなかったが、何もかもエリカの言う通りだ。無意識の内に自分に都合の良い人を選んでいたのかもしれない――。
でも……、でもやっぱり何かエリカの言う事に納得が出来ない。そんなことで“彼”を選んだんじゃないもん! わたしは男の人をそんなことだけで選べないわ――。
「でも……、それじゃあなたはそんな“打算”で店長さんを選ぶの? 店長さんに対して、あなた愛情は感じないの――?」
「愛情? 女の“愛情”は“相性”から来るものよ!? これだけ相性が良ければ何も問題はないわ。ジャージもそうだけど彼とは美的感覚が合うもん。最近カメラマンと結婚するモデルが多いのはどうしてか分かる?」
「いいえ……」
「あのねえ、わたし達モデルにとって一番大切なのは自分自身よ! 自分の美しさよ! その自分の一番大切なものを最高に綺麗な姿で撮ってくれるカメラマンは、わたし達モデルにとっては何より嬉しい存在なの。
実際、滝澤君の撮った写真を見たわ。カメラの腕もセンスも悪くない。まあモデルにあなたを使ってたのがちょっとウザかったけどね――。
何なら、わたしがカメラマンとして育ててあげても良いって思った位よ――」
 エリカが喋るのを止めほんの少し間を置き、そしてハッキリと裕美に言い放った。

「だからわたし滝澤君に対して結構本気よ。あなた邪魔をしないでね――」

* * *

「…………………………」
 裕美は自宅のマンションで、あるモノを無言で睨みつつ固まっていた。
 眉をひそめ真剣に悩んでいるかの様な表情だが、時折頬を染め恥じらう様な仕草をしては、「どうしよう? どうしよう?」と呟き困った表情を見せ、最後にはまた溜め息を付いて思い悩み始める……。裕美はそんなエンドレス・ループを昨晩からずっと続けていた。