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恋するワルキューレ 第三部

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裕美も負けてはいない。毒針を含んだ様な嫌味な口調でネチネチと言い返す。こんな姿を“彼”に見られたら、二人の関係も完全に終わってしまっているだろう。
裕美は名刺をエリカに突き出した。お辞儀もせず、視線も会わせず、フンっと片手で投げ出す様にだ。
「べ、弁護士!? あんた本当にロワ・ヴィトンの社員だったの?
 それに“北条裕美”って――」
 チッと舌打ちをしてエリカは視線を逸らした。
「藤倉エリカさん。弊社と契約されるなら、まずそのお行儀の悪さと言葉使いを改めて下さい。別に嫌味で言ってるんじゃありませんのよーー。この契約はプライベートも制約する条項もありますので、じゅーうぶん御注意下さい。当社のブランドの価値を汚す様な行為があれば、即刻契約解除の対象となりますかねーー!」
イーーッ!っとまるでケンカを売る小学生の様な裕美の口ぶりだ。弁護士として専門的な説明をしているだけに尚更のそのギャップが目立つ。まったく子供じみた態度だ。
「まあロワ・ヴィトンの『審査』を通ったんですから“表面的”には問題はないんでしょう。ただし――」
裕美はオフィス仕様の赤い伊達メガネをクイっと持ち上げて改めてエリカを睨み、更に口調を厳しくする。
「あなたの様なその態度を仮にメディア等の前でする様なことがあれば、法的手続きを取ってでも契約を解除させて頂きますわ!!
もちろん弊社の対応に不満がある場合は、どうぞ出る所に出て訴えて下さい。わたしが直接法廷で承りますわ!! その為にわたしがいるんですからねーー!!」
 しかしエリカも負けてはいない。
「フン、偉そうに! 弁護士か何だか知らないけど、いくらお利口ちゃんだからって男は落とせないんだからねーー。妙なプライドが邪魔してあんた男と失敗してばかりなんじゃないーー?」
な、何で、この女そんなことまで分かるのよ!? 
図星を刺されて裕美も動揺するが、流石に弁護士としての表情は崩さない。
そうよ、どうせ当てずっぽうで言ったに決まってるわ! 美の象徴ロワ・ヴィトンで働くわたしがそんなモテないだなんて傍から見てもありえないはずよ!
「そんなこと、あなたに関係ないでしょ! プライベートの話をあなたにペラペラ喋るつもりはありませんから」
「あーら、逃げるの? もしかしたら当たっちゃったかしら――?」
 クスッとエリカは余裕の笑みを見せる。
「まあ見る女が見れば一発で分かるわよ。キャリアを自慢してる辺りもそうだけど、あなたのロワ・ヴィトン・グループのブランドで固めたファッションだって――。まあぶっちゃけ言っちゃうとセンスなさ過ぎ。見てて痛々しいわよね?」
「ちょっとーー! 聞き捨てならないわ! ウチのブランドの服の何処が痛いのよ!?」
「あなたそんなことも分からないの?」と、エリカは半ば呆れる様に、そして半ば裕美を馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「ロワ・ヴィトンなんて女が女に対して自慢するためブランドよ。それも『わたしはお金を持ってますーー。ステイタスの高い女ですーー』ってね。そんな嫌味なことを言ってる女を男が相手にすると思ってるの?」
「わ、わたしは知性で勝負しているんです! それにTPOぐらいわきまえるのは当然よ! 今日はビジネスだからこのロワ・ヴィトンを着てるの! プライベートは違いますからねっ!」
「ふーーん、知性ねーー? でも全身そんなブランドで決めるのはやりすぎなんじゃない? あなた『プラダを着た悪魔』って映画見たことある? あれだってそのプラダを着ているのはバリッバリのキャリアウーマンだけど、中身はヨボヨボのオバサンよ――」
 『プラダを着た悪魔』――。裕美もその映画は当然に見ている。ジャーナリスト志望の女性アンドレアが仕事に恋にひたむきに頑張る姿を見せ、同世代の女性から圧倒的支持を受け世界中で大ヒットした映画だ。この業界にいるなら、そして同じ働く女性なら絶対に見なくてはならない映画の一つだ。
ただその映画で注目を集めたのはもう一人のヒロインならぬ悪役、メリル・ストリープ演じる『プラダを着た悪魔』の異名を持つファッション雑誌の鬼編集長っぷりだ。その高慢さとアンドレアに対するイジメっぷりはまさに『悪魔』で、そんな彼女は全身プラダの服で身を固めていたのだ――。
原文のタイトルはそのまま―― ”The Devil Wears Prada” ――。

「ふふん、分かったーー? まあ自分が“出来る”って見せたいならそのファッションもアリかも知れないけど、ハッキリ言って男は引くだけよ。何せ『悪魔』だもん。
日本でロワ・ヴィトンの“バックだけ”が売れるのは伊達じゃないんだからね。エレガントさと“可愛いらしさ”をバランス良く見せるために、みんなヴィトンのバッグを買うんだから。全身そんなブランドの服を着てるあなたは、その辺を分かってないんじゃないかしら――?」
裕美もこのファッションは確かにマズイと思ったが、今更エリカの前でそんな素振りを見せる訳にはいかない。精一杯、虚勢を張ってこう言うしかなかった――。
「ふーーんだ。心配なさらなくて結構です! そんな可愛いだけに釣られる男の人なんてやーよ。どんな下心があるか分かったもんじゃないもん。せいぜいあなたは体目当ての男と遊んで下さいーー」
「あーら、男の下心も分かってあげない女なんて、ちょっと“どうよ?”って感じよねーー? そんなお堅くて出来ることを自慢する女なんて男は求めてないのよーー」
「あーら、流石安売りして誰にでも身体を開く人は言う事が違いますわねーー。いくらモデルでルックスに自信があるからって言っても、それじゃ男の人だって引いちゃうわよーー?」
「あーら、わたしは安売りなんかしないし、する必要もないわよ! 男が付けてくれる値段だってプライスレス。そこらのヤリヤリの安物モデルと一緒にしないでくれるーー?」
「あーら、どうせモデルの価値なんてすぐに下がりますわよーー。商品としても飽きられるし歳も取るし、二重の意味でねーー! まあ今がピークでしょうから、今の内にせいぜい頑張って下さい。期待してますわーー!」
「あーら、今の時点じゃ勝ち目がないからって、そんな先の話をするなんて見苦しいわーー。大体、あなただって歳をとるでしょーーに」
「あーら、わたしの場合、知性とエレガンスはまだまだ磨けますのでーー。男の人の仕事だって家庭だっていくらでもバックアップできますの。これから益々わたしの価値は上がっていきますから、ご心配なくーー」
 裕美の言葉に「フフッ」とエリカが勝ち誇る様に笑い出し、ネチネチドロドロのトークが一瞬止まる。
「フフフ……、知性だなんて全く笑っちゃうわ! “見た目の勝負”から降りた女なんて惨めなだけよ。『女は顔じゃないわー』、なんて言っている女ほど惨めで悲しいものはないわよ! でも、そうねえーー。まああなたはそんな悪くないわ。一応、褒めてあげる。
まあ、“中の上”ってところだけどねーー」
「な、何よ! 人のこと“中の上”なんて!」
「あーら、わたしたちプロのモデルからしたらそんなもんでしょう? それともあなた、そんなに自慢できるルックスかしら?」