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恋するワルキューレ 第三部

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「わたしが言うんやから間違いあらへん。あいつとは付き合い長いからな。結構、女の気持ちに聡いんや。知っとるか? あいつ姉ちゃん子やねん」
「店長さんに、お姉さんがいたんだ……」
「そうや! あいつなあ、ちっちゃい頃から姉ちゃんに面倒見てもらったらしくてな。
だから姉ちゃんに頭が上がらんかったらしい。ちっちゃい頃は姉ちゃんにパシリもやらされてたらしいでえ」
「ウフフ……、そうなんんだあ……」
“彼”のそんな尻に敷かれた所を想像して思わず嬉しくなってしまう。美穂の話で少しずつ心の痛みも和らいできた。
「まあそれで女ウケも悪くないし女の扱いも手慣れてるんやけど、基本的に女に弱いんや。それでわたしもそんな歳も離れてないんやけど、ついついタッキーを尻に敷いてしまってなーー。ちょっと悪いことしたわーー」
「フフッ! なんか面白いわね。店長さんのレディー・ファートって、そうゆうことだったんだあーー」
「笑ちゃうやろ? 結構、男前な所もあんのになあ。ヘタレなとこ見られたら、折角の良いルックスも台無しやあ」
「ああ、でもちょっとそんな所も可愛いかも……。わたし見てみたいなあ……」
「なら今度わたしがちょっとタッキーをイジって見せてやるわ! 楽しみにしときい!」
「うんうん、それでわたしが店長さんを慰めてあげる! 優しくしてあげる!」
「ハハハーー、なんか合コンのカップリングしてるみたいやなあ。こりゃあ相当キツク絞ってやらんと。それじゃ、裕美、どんな方法で絞ってやるのがエエ? 幾らでもあるで?」
「うんうん、手加減なんか要らない! うーーんとイジメてあげて! 今回のお仕置きもあるんだから!」
「そうかあ? なら練習でボロボロになるまでシゴいてやろうかあ? 尽くし甲斐があるでえ。疲れ切った処にタッキーに手料理を食わせてやって、マッサージをしてやって、レーパンまで洗濯してやって――。男なら絶対抵抗出来んわー。そんで最後は男を悦ばしてやって――。まあこんなフルコースを決めれば誰だって落ちるやろ」
「悦ばせるって……。む、無理よ……。わたしそんな経験ももないのに男の人を悦ばせるなんて……」
「何言っとんのや!? タッキーだって男なんやから、いつまでも我慢させたら可哀そうやろ?」
「ちょっとーー! 美穂姉えまでそんなこと言わないでーー!!」
「なに悠長なこと言っとんのや? そんなチマチマしとったらエリカに盗られるでえ!? タッキーに何もサービスせんのに、ただ我慢しろ、他の女を見るなだなんて、そりゃ男も逃げるで。エリカに手を出してもそりゃ仕方ないわーー!」
「うう……、でもわたしそれだけは自信ないもん……。それに店長さんもお客様には絶対そんなことしないって、ツバサ君に言われちゃったもん……」
「だったら勢いに任せたらエエ。タッキーを酒で潰して、そっちの方で絞ってやろうか? 後は裕美が介抱してやればエエやん。ベタやが確実やでえーー」
「そんなあ……。わたし初めてがそれじゃあ、あんまりだわ……」
「だからエエんやん。タッキーだって尚更責任を取らざるを得なくなるやろ!? 裕美の処女を貰ってしまったらな?」
「許して、美穂姉えーー。せめて最初ぐらいは……。女の子として夢を持たせてーー!」
「気にするなって! 初めてなんて誰だって上手くいかんもんやし、恥かしい思い出にしかならんって」
「嫌よーー! ただでさえ恥かしいのに、そんな痛々しくて恥かしい思いまでするなんてーー! ……もう店長さんに顔を見せられなくなっちゃうーー!」
「大丈夫、痛いったって別に怪我する訳やないしな。女なら当たり前のことや」
「だから痛いって、そうゆう意味じゃなくてーー!」
 裕美は顔を真っ赤にし両手をバタバタと振りながら美穂を止めようとするが、「ハハハ、なかなか裕美も面白いこと言うやん」と気にも留めない。
美穂姉え、ヒドイ……。わたしの“初めて”をそんな軽く――。
 裕美のロマンをゴミ程度にしか思わない美穂の態度に、裕美も流石に軽くショックを受けた。
「それに店で会うのがマズけりゃ、通い妻って手もあるしな」
「か、通い妻……」
「そうや、タッキーの家まで通って、メシでも作ってやって、ヤることヤってくればエエやん」
「店長さんの家に行くのは良いけど……、そんなヤるだなんて……」
「良いアイディアやん。それなら店や客の連中にもバレんしエエやろ? まあ付き合ってるのなんて隠しても雰囲気で分かるもんやけど、まあ大っぴらにやらなきゃ問題ないやろ」
「そうなのかなあ……? ツバサ君は、店長さんは絶対そんなことしないって言ってたけど……」
「そりゃ客やスタッフの前でおおっぴらにアプローチしてくるなんてことは絶対せんわなあ。でもチームや店に気を使って、さりげなーく付き合えば、連中だってそれなりに見て見ぬふりぐらいしてくれるやろ。人の恋路を邪魔する童貞はウチのチームにはおらへん」
 裕美の脳裏にチーム・ワルキューレの面々が浮かんだ。タカシにユウヤ、オサムと言った男の人達――。確かにあの人達なら女の子慣れしていてそうだ。でも女の子が好きで、悪戯が好きで、みんなで騒ぐのが何より好きな人達だ。
「ダメー! あの人達に知れたら、人をイジるだけイジってまたオカズにされちゃうーー! 絶対知れたくなーい!」
「ハハハ、安心せえな、裕美。あいつらもガキやないし、わたしが絶対そんなことさせへん」
 そうよね……。美穂姉えが言ってくれれば……。
確かに美穂姉えがいてくれれば、彼らもそんなことはしないかも知れない。美穂姉えの彼らに対するお仕置きは何度も見てきたのだから、そんな酷いことはしないだろう。
「でも美穂姉え。通い妻だなんて……。彼とあの……ソレだけのと言うか……。身体だけの関係みたいで……。流石にそれじゃあ――」
 裕美は頬を染め、恥かしさを堪え必死に声を絞り出すが、美穂はそんなことは一向に気にしない。
「何、言っとんのや! 男が求めんのはそれやで? タッキーだって、いくらだって有り余ってるはずやからな。幾らだって応えてやればエエやん」
「でもそれじゃあ、女としてあんまりにも……。わたしって身体だけが……身体だけが目的にされちゃうの?」
「気にすることあらへん。慣れればその内、裕美の方から欲しがる様になるさかい――」
 そう言うと美穂は裕美に抱き付き身体をまさぐり始めた。
「ちょ、ちょっと、美穂姉え!」
「まあ予行練習でもしとこうか? タッキーとやる時のために身体を慣らしとかんとなあーー?」
「み、美穂姉え! そう趣味があるの!?」
「さあ、どおうやろなあーー」
「ええーー!? そんなーー!」
親父の様なノリとは対照的に、美穂は吐息を裕美の首筋に吹きかけ、腕を裕美の胸や身体に絡みつけてきた。
「美穂姉え、止めてぇぇぇ!」
きゃああああーーーー!!

* * *

はああぁぁ……。
 裕美はロワ・ヴィトンのオフィスで、またも深い溜め息を付いていた。
 裕美は落ち込んでいる時、必ずと言って良い程甘いホットココアを飲むのだが、今日もその例外ではなかった。
あれから一週間、結局“彼”と顔を合わせられずにいたからだ。