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恋するワルキューレ 第三部

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「裕美さん、言いますねー! 露骨ですねー! 痴女とは言いませんが、逆ナン女でもそこまで言いませんよ! もうちょいさり気なく言うもんですよ」
「ツバサ君たら、痴女なんて変なこと言わないで! そりゃあ、女の子が口に出すことじゃないけど……。でもやっぱり女の子としては、そうあって欲しいじゃない。好きな人には言わなくたって分かってもらいたいもの」
 そんな裕美の言葉に、ツバサは珍しくも困った様な顔をした。
「うーん、裕美さん、気持ちは分かるんですけど、そりゃあないと思いますよ。店長が裕美さんと付き合うだなんてありえないすっよ」
「な、何よ、ツバサ君? ”ありえない”だなんて? もしかして店長さん、他に彼女がいるの? まさかエリカってモデルとヨリを戻したの!?」
 一瞬にして裕美の形相が変わり、ツバサの首を締め上げる。
 エレガントと知性を売りにする裕美と言えど、決して聞き逃すことが出来ない話だ。ツバサを締め上げる腕にも、女の細腕とは思えないほど力が入る!
「エ、エリカさんのことは知りませんけど――。と、とりあえず手を離して下さい! マジ、苦しいっすよ!」
「じゃあ、ちゃんと本当のことを言うんですからね!」
「もちろんです! 言います、正直に言いますって!」
 じゃあ、とばかりに手を離すと、ツバサは「やっぱり怖え……」と呟いた。
「えー、あのですね。裕美さん、店長の立場ってもんを考えて下さい。裕美さんは“お客様”ですよ! 店長がホイホイ手を出す訳ないじゃないっすか。店の信用ってもんがありますからね。それともナンすか? 裕美さんは店長にアレとかソレとかして欲しいんですか?」
 アレとかソレって……。
裕美は顔を真っ赤にしてしまった。一瞬“彼”とのシーンが目に浮かんだからだ。
「ツ、ツバサ君たら、なにエッチなことを言ってるのよ! セクハラは女の敵よ! 本当に訴えちゃうんだからね!」
「だからマズイんじゃないですか!? セクハラなんかで訴えられたらウチの女性客は全部逃げちゃいますよ。だから店長だって裕美さんに手を出すなんてことしないんですよ!」
「手を出すとか出さないとか、そうゆう問題じゃないのー!! ハートの問題よーー!」
「“ハートの問題”だなんて、裕美さん、またそんな子供みたいなことを……。これだから処女は……」
 裕美が一瞬鬼の様な目でツバサを睨む!
「ツバサ君。それ以上言ったら、本当に訴えるからね!! このお店で働けない様にしてやるから! それだけじゃないわ! 他の店に行ったとしても、追い駆けて何度も告訴して、社会的に抹殺してあげるわ!」
「わあ、あぁ……。いや、裕美さん、冗談ですよお。やだなあ、俺がそんなことを言う訳ないじゃないですか。アハハハ……」
「あらそう? それなら許してあげるわ」
 裕美は鬼の睨みを解いて、ツバサを拘束から解放した。
「まあ、セクハラは置いとくとしまして……。ええ、店長としてはですね……、何と言いますか。ウチの場合一見のお客様は少ないじゃないですか? みんなチームを組んで走ったりしますから、横の繋がりがスゴイ深いんですよ」
「何よ? だからそれが一体どうしたって言うの?」
「ですから、店長と裕美さんが付き合い始めて上手くいけば良いですけど、仮に別れたなんてなったら……って、そうゆう話ですよ。女の子を頂くだけ頂いて飽きたら捨てた――なんて噂になったら、ウチの女性客みんな逃げちゃいますって」
 そんな……。”彼”がわたしをもてあそんで、飽きたら捨てちゃうって言うの!? そんなこと、彼がするはずないじゃない!
「て、店長さんはそんなことしないわ!」
「だから仮の話ですってば。もちろん店長はそんなことしませんよ。でもそうゆうことを考えて、裕美さんと付き合ってるはずですって!」
「ううう……。でもツバサ君、その話って本当なの? 偉そうなことを言ってるけど、ホストみたいに安っぽく声をかけてくるのはツバサ君でしょ? ちょっと疑っちゃうわ……?」
「俺だって一線を越える様なことはしませんよ。そりゃ女性のお客様と仲良くはなるけど、本当の“お友達”ですからね。手を出すなんてことはしません」
「もう! ホストクラブじゃないんだから、そんなこと自慢にならないわ! 随分沢山の女の子と仲良くしてるけど、その内刺されちゃうわよ?」
「そーんなことはないですって。女の子に嫌われる様なことはしませんもん。仮に告られても『俺の恋人はチャリだからー』って言ってますもん。
「よ、よくそんな嘘を堂々と言えるわね!? ツバサ君が『女の子よりもロードバイク』だなんてある訳ないじゃない!」
「嘘じゃないですよ。本気で言ってるんですからね。何せ俺って仕事もプライベートもチャリ一筋ですもん」
「今時、そんな硬派を気取る人なんて痛々しいだけよ! “レディ・ファースト”を知らない時代錯誤の野蛮人だからそんなことが言えるんだわ!」
「んなことないっすよ! 俺ってフェミニストだから、女の子をヨイショして持ち上げますよ。でもね――」
 ツバサがチッチッチと言いながら、指を左右に振る仕草を見せる。
「チャラいスタイルで女の子に近付いてサービスしまくった後に、そんな隠れた硬派な一面を見せてあげるんです。そうすると女の子もグッとくるみたいで、また指名率も上がって色々と買ってくれるんです。それに俺のバイクのパーツやウェアとかも半分以上はプレゼントされたものですしねー」
ええーー!! それってわたしと同じじゃない!? この前も“彼”とちょっと話がしたくてパーツを買っちゃたもの!
このお店ってホストクラブ? もしかしてわたしも騙されているの? 
誘うだけ誘って何もしないなんて? そんなことをされたら、女の子は生殺しよー!!
「ちょっと、ツバサ君待ちなさいよ! もしかして店長さんもそんなホストみたいなことしてるの!?」
「ハハハ……、店長はそんなことしないっすよ。流石に立場的にね。でも『女よりチャリ』ってのは店長も同じですよ。俺達やっぱ同じ穴の言うか、まあ兄弟ですよね」
 そんなー! 店長さんまで『女の子よりロードバイク』なの?
確かに“彼”の素っ気ない態度を考えれば十分ありうる話だ。ツバサの話を真に受ける訳ではないが、実際、彼も店長としての仕事に追われてプライベートの時間もない。女の子と遊んでいる時間等ないだろう。
だからこそ”彼”がモデルのエリカと一緒に仕事をしていたことに嫉妬し二人の関係を危険に感じたのだ。
「だからですねー。店長に関しては、裕美さんが期待するようなことはありませんよ。ご愁傷様ですけど!」
 うう……。折角、“お客様”を卒業して、やっと“お友達”になれたと思ったのに……。
箱根でわたしを助けてくれたんだもん。絶対“ただのお友達”じゃないはずなのに……。
「うう、ツバサ君。それなら、わたしどうすれば良いのよ……?」
「どうしようって……。まあ、時間をかけてゆっくりと攻めていくしかないんじゃないですか? 強引に攻めたら、店長もチームのみんなも引くだけですって」
「そんなあ……」
 結局、その日“彼”は店に戻らず、裕美は寂しく帰るしかなかったのだった……。

* * *

はああぁぁ……。