完結してない過去の連載
「できれば一生迎えに来たくなかったけどな。」
彼はだらっとした空気をまとっているくせに、全く気をぬいてはいなかった。
そのせいで、その場にいた全員が彼に見られているような錯覚に陥った。
「…あなた…誰…」
「んなこたどうでもいい。死にたくなきゃさっさと来い」
彼女は男から目をそらせずに呟き返した。
「…そんなこと言われても…私を連れ去ったあとあなたが私を殺す可能性もあるのよ」
全くそんなことを気にしてはいなかった。
彼女は本当は、このぬるく安心な世界から早くぬけだしたかった。
それでも彼女の理性が彼女をおさえつけた。
「んなこと思ってねぇくせに」
男がめんどくさそうに溜め息をついた。
…彼女の本心を見抜いたのはその男が初めてだった。
その途端彼女の気持ちは決まった。
呆然とするクラスメイトを無視して、手を握る。
男のバイクに二人はまたがった。
「…迎えにきたくなかったってどうゆうこと?」
密かに男が父親なことを望んでいた凛が、少し恨めがましい声で聞いた。
「残念ながら俺はお前のとーさんじゃねぇよ。」
またも男に気持ちを読まれた。
「お前のとーさんは何百人の男たちだ。」
「…?」
「あとそうしょぼくれんなよ。俺はずーっとリンに会いたかったよ。ただ俺たちの世界に戻ってきてほしくなかった。誰もがそれを望んでた。だがそうもいかなくなってきちまってよ。」
「…あなたたちの…世界?」
後ろ姿で男が笑っているのがわかった。
「おぉ。血生臭い…」
殺し屋の世界によ。
作品名:完結してない過去の連載 作家名:川口暁