完結してない過去の連載
雨師ひとり
雨の神を雨師(うし)と言う
しかし本当のところは、雨師に雨を降らせる力はなかった
ただ、あったのは…
本当の雨の神、龍神を服従させる能力のみであった
老婆に連れられた、髪をちょうど肩まで伸ばした少女が歩いている。
彼女の名は美涼(みりょう)といった。
老婆は、古びた小屋のような家の前で足を止めると戸をたたいた。
「なん」
明らかに警戒をした声で薄く扉が開けられた。
「この子が龍神様が産まれる言うでな、雨師の式さしてもらえんかな」
ガラっと音をたて、女がでてきた。
「…そんなら雨師様はまだおったんか…」
驚いた顔で女が聞く
「いや、本当の雨師どのはこの子の祖父だっただが、死んじまってな。おなごだっちゅうのに、龍神様を感じる言うてたからわたしが代わりに連れてきて、ついでに雨師の式さしてもらお思て」
少女が軽く頭を下げる
「美涼、ほんまに感じるんか?」
こくりとうなずき、強い視線で女を見据えた。
「ほんまに雨師様なんやな…」
女がなにか神聖なものでも見るかのように美涼を見つめた。
「とすると…」
老婆が目を見開いた
「卵が孵りそうなんや。今日」
老婆がほーっと深く溜め息をついた
「…ありがたいことや。まさかこの年になって龍神様を拝めるなんてな…」
美涼が空を見上げた
「雲行きがおかしい…」
そっと呟く
「産まれる」
作品名:完結してない過去の連載 作家名:川口暁