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花少女

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 いつからか、青島月路の視線が私を刺しているのを、感じるようになった。今までの、私を通して妹を見ている視線ではなく、彼は私自身をじっと見つめていた。その視線が何を意味しているか私には分かりすぎるほど分かっていたが、気付かない振りをした。気付いてしまえば、もう言い訳は残されない。
 彼は無言で、私を責め続けた。私が妹に与えてしまったものを、思い知らせたいのか。
「神崎先生、あの」
 全ての授業を終え、ため息とともに学校を出ようと急ぐ私を呼び止めたのは、九条円だった。彼女はいつものとおりお下げ髪を揺らして、私を見上げていた。その視線はまっすぐに私を捉えていたが、青島月路のように、私の本質までも見通す力は持っていないようだった。それが逆に、私の罪深さを暴き立てている。
「小夜子さんのことなんですけど、……肺炎、じゃなかったんですか」
 何故そんなことを問うのか、と私が聞くと、彼女はつい先日の青島月路のように、真剣に言った。「小夜子さんはもう、肺炎は治ったって言ってました」。私は目眩を感じる。
「どうして、まだ入院していなければいけないんですか。もしかして、何かまた病気に罹ったんですか。小夜子さんは、もう大丈夫だから、としか言わないんです。教えてください、先生」
 ぐわんぐわんと、九条円の声が頭の中で反響する。大きな鐘を、耳元で鳴らされたような気分になる。
 彼女は既に、真実を知ってしまっているのではないだろうか。あり得ないことではない、あり得ないことでは。……いや、そうじゃない、と私は一人で首を振った。九条円はそんな私を不安げに見つめている。私は顔中の筋肉を総動員するような気持ちで、全身の力を、微笑むことに費やした。そうでもしなければ、今すぐにでも叫びだしてしまいそうだった。もう妹は助からないのだ、死んでしまうに違いないのだ、と。私のぎこちない表情に、九条円がどんな反応を示したのか知りたく思ったが、それだけの余裕すら、私には残されていなかった。
「大丈夫、妹はすぐに退院するよ、きっと」
 きっと、の部分で、力を入れすぎてしまったような気がする。些細な棘がいつまでも気になってしょうがない子供のような気持ちで、私は九条円の答えを待った。しかし彼女はいつまでも言葉を発しなかった。周りの空気が少しずつ私の全身を締め付け始めたころ、ようやく一礼をして、彼女は去っていった。妹に良く似た後姿だけが、私の中には残った。
作品名:花少女 作家名:tei