小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

花少女

INDEX|25ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

 その日を境に、妹は見る見るうちに衰弱していった。

「神崎さん、」
「神崎先生、」
 私を呼ぶ声が、どれも遠くで聞こえていた。一日一日が私を突き放すように、目まぐるしく駆けていった。私は、夢の中にいる妹に、一人で会いに行った。彼女はいつでも死んでいて、私はいつでも現実から逃れきることが出来なかった。私の時間は、もう止まることがなかった。
「お兄様、」
 長い昏睡状態から目覚めた妹が、私に、白い花を差し出した。青白い、緑と言うにはあまりにも色素の薄い、ひょろりとした細い茎の先に、ぽつんとそれは咲いていた。美しく、あまりにも白かった。私にそれを手渡して、妹は微笑んだ。
「綺麗な花でしょう。目覚めたら、枕元に置いてあったのよ」
 か細い、今にも消えてしまいそうな声で、尚も妹は私に言った。
「お兄様に貰って欲しいの。綺麗な花ですもの、庭に植えなおしたらどうかしら」
 それはお前の中で、お前を肥やしにして育つ悪魔なのだ、と私は口には出さず呟いた。手術をした際に切除されたのだろうその花は、それでもやはり美しかった。妹の雰囲気に、良く似た花だった。可憐で、消え入りそうな、線の細さ。私は涙をこらえ、その花を受け取った。
「ああ、有難う」
 妹の身体には、たくさんの管が取り付けられていた。体内の植物を取り出す手術は成功したと聞いたが、妹の栄養状態は良くないようだ。植物の茎にも見える管を生やしたその姿を見るたびに、私の心臓はやせ衰えていく。
「神崎さん、」
 いつものように、私と妹を引き離しに、杉木医師がやって来た。面会時間が終わる。妹は、すでに眠そうに目をこすっていた。病室を出ると、杉木医師はいつものように病状の説明をし、私が攻撃するとでも思っているのか、そそくさと他の回診に出かけてしまう。
 杉木医師の手術は、失敗したのだ。
 誰も、そうはっきりとは言わなかったが、目に見えて弱っていく妹が、それを証明していた。
 やがて、彼女の身体には花が咲き始めた。
作品名:花少女 作家名:tei