詩集 『天―AME―』
『帰路』
鮮やかに彩られたこの街で
見上げた鐘の音を聞きわけて
帰路に走る足音
靴音に響いた懐かしい思い出
サヨナラと言えないまま
遠くに来てしまった
君の待つ故郷はまだ遠く
果てしない道筋に
還り方を忘れてしまった
幾年過ぎてもあの日々を忘れたわけじゃないのに
消えていく君の笑顔
どんな声だったろう?
どんな笑顔だったろう?
もう君の顔さえ思い出せない
迷い込んだ世界の果てで
擦り切れた靴底とほつれて汚れたコートを纏い
途方に暮れ
望郷は姿を消してゆく
慈しんだ
愛した
望んでいた
もう眼も見えない
声も届かないだろう
それでも目指すよ
君はまだ待っていてくれているかもしれないから
目指すよ
諦め悪いから
だから笑顔を見せて
作品名:詩集 『天―AME―』 作家名:柳 遊雨