恋の掟は冬の空
デートまでもう少し
お昼を食べると、今日は土曜日だから 1時から面会時間が始まっていた。
病室もにぎやかなら、ロビーも込んでいたので、ベッドの上でヘッドホンを耳に当てて、ぼんやりとTVを見ていた。
「あれ、うれしくって 松葉杖ついて歩き回ってると思ったら・・・そうでもないんだね・・」
外科病棟婦長だった。入院するまで知らなかったけど、婦長っていっぱいいて、1番偉いのが総婦長でその下が総副婦長でその下に、よくわからなかったけど、各科にまた婦長のようだった。
「ダメって言われても夕方にはきっと歩きまわってますから・・」
今日は夕方に直美がやって来ることになっていた。
「誰か お見舞いに来るのかしら・・あっ、彼女かぁ・・この頃わたし会ってないわねぇ・・」
「えっと、今日が3日ぶりかなぁ」
昨日の夜に面会時間外に、直美と会っていたのは、当然婦長には内緒だった。
「そうなの・・私はもっと会ってないような気がするわ」
勤務時間で、すれ違いだったのかもしれなかった。
「えっと、では あんまり無理して歩かないようにね・・それだけね・・」
「はぃ」
言い終わると、病室の巡回を続けるようだった。隣のベッドのバイクで事故って一週間前に入院してきた高校生に話しかけているようだった。
それから、土曜日だったけど「大場」も「夏樹」も病院に遊びに来なかったから、地下の売店まで雑誌と飲み物を買ってきて、ベッドでごろごろしていた。
途中で、赤堤の叔母さんに、頼んでいたことがあったので電話を入れていた。
廊下を松葉杖で歩いていると、知り合いの入院患者からは、「お、車椅子じゃなくなったのかぁ・・いいなぁあ」って声をかけられていた。
直美が来るのが気になって、時間はさっぱり進んでいなかった。
バイトは5時までらしかったから、ここに来るのは早くても6時になるはずだった。
夕飯をここで食べる約束だったから、今日の病院食の夕飯は断っていた。
「こん こん 柏倉さん・・」
高校生の夕子がベッドの足元に車椅子で来ていた。
「なーに 暇になっちゃったの・・」
1時間前ぐらいに、ロビーで友達と話してるのを見かけていた。
「うん、今まで同級生来てたんだけど、今、帰っちゃったから・・柏倉さんのところには、今日は誰もお見舞い来ないんですかぁ・・・」
「夕方になったら 直美来るけど・・」
「うわぁ 何時ごろですか・・」
じゃまされそうだった。
「えっと 6時ぐらいに来る予定で、一緒にロビーでご飯たべようかなぁって・・」
「わー いいなぁぁ。お弁当作ってくるのかなぁ 直美さん・・」
そりゃ、病院食なんかよりは ずっといいに決まっていた。
「朝からバイトなんで、駅前のデパートでお弁当買ってくると思うよ」
「そっかぁ 私も今度おかーさんにお願いしようっと・・」
内臓悪いわけじゃないから、さすがに毎日病院食は、夕子も飽き飽きだろうなぁって思っていた。
「夕子のも今度は買ってきてもらうように言っておくから・・」
「わぁー うれしいけど、じゃましちゃ悪いからなぁ・・」
「あ、夕子は病室で1人で食べるに決まってるじゃん。俺と直美はそれって、デートだから2人きっりで食べるのよ・・」
ちょっと意地悪を言ってみた。
「うーん そうくるかぁ・・きったないなぁー」
わざと怒った顔を作って言い返されていた。
「ま、直美が来たら呼んであげるよ・・・受験の英語の事でで聞きたいことあるんでしょ・・」
「うーん。あるんだけどなぁ・・じゃますると本当に怒られそうだからなぁ・・」
「冗談だってば・・ま、全部の時間はあげないけどね」
「うん。まじでほんとに少しだけ聞きたいことあるから、柏倉さんと話しに詰まったら病室に呼びにきてって、直美さんに言っておいてください」
笑いながら、高校生に反撃されていた。
「じゃぁ おじゃましましたぁ・・あ、今日はキスするなら 私も見ます・・」
車椅子を走らせながら、からかわれていた。
時計を見ると、まだ5時になるところだった。
さすがに直美のことが気になって 時計が全然進んでいなかった。
しょうがないから、またベッドに横になって、ボケーっとしていた。
ベッドの横の小さい引き出しの付いたテーブルの上の直美の写真を眺めていた。
夏の終わりに「稲村ガ崎の海」で撮った写真だった。
フォトスタンドに入った直美はうれしそうに笑っていた。