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恋の掟は冬の空

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回診


早い時間の病院食を食べると、午前中に担当医が来るまでは、1日で1番暇な時間の始まりだった。
だいたいは 本を読んでることが多かった。
「柏倉くーん」
足元のカーテン越しにナースだった。
「おはよう。どうーかなー」
山崎担当医だった。
どうかなーって、言われてもなーだった。
「ふーん もう大丈夫かなー じゃ 今日から松葉杖だすから、あとで ナースに呼ばれたらリハビリ室に行って、杖もらってね」
言いながら 俺のレントゲン写真を見ているようだった。たぶんボルトなのか釘なのかが何本もくっきり写っているはずだった。複雑骨折というか粉砕骨折でばらばらだった骨は、1本のきちんとした骨になっているようだった。
「あのー 先生、退院っていつぐらいになりますか・・」
「そうだなー 杖使えれば、あとは通院でいいかなぁ・・年末には帰れると思うけど・・」
あっさり言われたけど うれしかった。
「うんじゃ。昨日も急患ばっかで寝てないから、早めに終わりたいので、こんぐらいね」
冗談なのか本気なのか、さっぱりな言い方だった。
「じゃぁ 後でまた来ますね」
仕事顔のナースに言われていた。

それから30分もしないぐらいで、2階のリハビリ室だった。
「えっと 柏倉くんだね。今日から松葉杖で歩行訓練だね・・ちょと、まずこれを当ててみてくれる・・」
名札には「鈴木」って書いてある30歳手前ぐらいの先生だった。
言われた杖をわきの下に入れて車椅子から立ち上がった。ちょっと長い感じだった。
「うーん ちょっと合わないね。待ってね・・」
言いながら、若い先生は違う杖を出してきた。
「はぃ じゃぁ これでいいかな・・」
言われたのに替えると、ま、こんな感じなのかなぁだった。
「手の位置が もう少し下のほうがいいかなぁ・・どうだろう・・ちょっと歩けるかな・・」
両手の脇の下に杖を入れて、少し歩いてみた。
「お、うまいね・・大丈夫そうだね・・どう、手の握る位置は・・」
「えっと、やっぱり、もう少し下のほうがいいかもしれないですね・・」
あんまり、実感はなかったんだけど、もうすこし下のほうがなんとなく良さそうだった。
「ちょっと、いいかな。ここをね、こうすると、自分でも調節出来るからね・・」
言いながら、やり方を見せてくれていた。
「どれ、今度はどうだろう・・もう1回歩いてくれるかな・・」
差し出された松葉杖でまた 少し歩いてみた。さっきよりはずっといい感じだった。
「どうですかねー 自分ではいい感じですけど・・」
「そうだね。今日はこれでどうだろうか・・いつでも調節してあげるから、いらっしゃいね」
優しそうな先生はにっこり笑っていた。
「では、少しここで歩く練習してってくれるかな・・で、声かけるから、そうしたら病室にもどっていいですよ」
「はぃ。ありがとうございました」

少し練習したら、思っていたほど簡単ではなかったけど、なんとか上手になっていた。
「柏倉くーん。じゃぁ 今日はもういいよぉ。車椅子と最初は併用ね・・病室には車椅子に乗って帰ってね・・最初は無理しないでね。少しづつね」
「ありがとうございました」
言い残して 車椅子座って、ひざの前に杖を抱えていた。これで移動のほうが難しかった。
「ここに、こうやって置いて抱えるのよ」
てこずってたら、ナースが教えてくれた。やっとなんとかまっすぐに進んでいた。

5階にエレベーターで上がって、ナース室の前を過ぎると、声をかけられた。
「おっ、抱えてきたね、松葉杖・・あんまり最初は無理しないようにね・・」
外科婦長だった。
「はぃ 今も先生に言われてきましたから・・」
「そう。あ、ちょっと歩いてみてよ。少しでいいから・・」
ナース室の前で杖で立ち上がって、少し歩いてみた。
「こんなもんで どうでしょう・・」
5mぐらい歩いて、婦長の前に戻ってきた。
「うん、大丈夫だね。年内に退院できるといいね」
外科婦長は うなづきながら ファイルに何かを書きながらだった。きっと俺のことをメモっているようだった。
「では 病室もどります。失礼します」
言い終えて、車椅子に座りなおしてナース室を後にした。

「おっ 杖もらってきたんだ・・いいなぁぁ」
前から車椅子の高校生の夕子だった。
「おはよう。ロビーに行くのか・・」
「そうそう。柏倉さんも行きますか・・」
「いや 俺、1回病室に戻るから、あとでいくわ」
とりあえず、車椅子を部屋に置いて、松葉杖で移動したかった。
「あのう、朝早くに、聞いちゃいました・・昨日の晩のこと・・」
やっぱりって思っていた。
「それって エレベーター前で・・ってつながる話?」
「はぃ」
元気な声だった。
「やっぱり 本当の話だった・・」
うれしそうな顔で言われていた。
「それって 誰からどう伝わってるの・・」
どっちも聞きたかった事だった。
「どうしようかなぁ言わないで下さいね。主任からです」
内緒にしてあげるねって言った本人から直接だった。
「で、どう伝わってるの・・それって・・」
「えー どうしようかなぁ・・聞きます・・それ・・・」
少し顔を近づけて言われていた。
「えっとですね、いいですかぁ・・柏倉さんが 彼女とエレベーターの前で、3分ぐらい、おやすみのキスしてた・・です」
ちょっと 笑っていた。
「うんとね 事実だけど、10秒もしてないからね 2秒ぐらいね、それ。そこのところ大事な訂正ね」
まったくの主任だった。
「えー だってねぇ・・そう言ってたもん」
たぶん 本当にそう言ってるんだろうなぁ・・って思った。
「でも、2秒だからね・・」
無理だと思ったけど いちおう念をおしておいた。
高校生はうれしそうに笑っていた。
もうすぐ土曜の午後がやってくる時間だった。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生