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恋の掟は冬の空

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それは日曜で


「ねぇ、 着替えちゃって・・」
「えっ どっかでかけるの・・」
ゆっくりの朝ごはんを食べおわって、コーヒーを入れていると直美に言われていた。
「うん。出かけるよー それ、飲んだら出かけるからねー」
「どこへよ・・」
「うーん、そっかぁ、そうだよね・・」
「そうだよねって言われても・・」
「いいから、着替えちゃってよ、でも、少し歩いちゃうけど、平気かなぁ」
「歩くのはいいけど、どこ行くのよ・・」
「すぐにわかるって・・早く着替えちゃってね」
なんだか、わからなかったけど、もう直美はお化粧を始めているようだった。
「内緒なわけ・・」
「内緒ってわけじゃないけど、いいから、一緒にいくんだってば・・」
もう、これ以上聞くのはいいやってコーヒーを飲みながら着替えていた。
「さ、飲んだら 出かけるからね、お天気もいいから、そんなに寒くないみたいだし」
「うん、ちょっと待ってね、すぐに着替えるから」
着替え終わると、直美にせかされて部屋から外にだった。

「これって 地下鉄に乗り換えるんだよね・・」
下北沢から井の頭線に乗って渋谷に着いていた。
「あれ、やっとわかったかな・・」
「たぶん、きっとかな・・」
家を出てから、行き先はまったく聞かずに直美に言われた通りに後ろをついてきていた。
「足は まだ、平気かな・・疲れてないかなぁ・・」
「うん、ここからは 始発だから平気でしょ・・」
予想通りに地下鉄銀座線なら始発のはずだと思っていた。
「あれ、もうやっぱりわかっちゃったかなぁ・・」
「うん、たぶんね・・」
「うんとね、劉ね、今日は日曜なんだよ、わかる・・」
もちろん本当は月曜日だった。
「劉と約束したもんね、日曜のデート・・」
「うん、そうだった」
「何日だか わかるの・・」
「11月15日かな」
「あ、頭は打ってなかったね、大丈夫みたい・・」
「頭の中を切っただけだってば、ここね、はげ・・」
「見せなくてもいいから・・」
笑われていた。
跳ね飛ばされたのが土曜日で、次の日は2人で浅草に遊びに行く予定だった。
「ばれちゃったけど、銀座線ね」
切符売り場の前にたどり着いていた。

始発だったから座って暖かい地下鉄に乗っていると30分で、終点の浅草についていた。
「直美って小学生以来なんでしょ」
「そう、劉は・・」
「よく 来てたのは小学校の時かな、親戚がこの裏の三ノ輪にいるから」
階段をのぼりながら、心配そうな顔の直美と話していた。階段だけはまだ、うまく上れなかった。
「どこだっけ・・」
「あそこだね」
少し人ごみの角を指差してだった。
「大きな赤い提灯見えないけど・・」
「ちょっと曲がったらすぐだよ」
「そっか」
「うん」
「手つないでも平気かな・・」
「うん、右手なら、大丈夫。でも本当はこっちがいいんでしょ」
「なんとなく右手を握ってもらうの好きなんだもん。でも、こっちでもいいよ」
出された左手を握っていた。
「さ、歩こうか・・」
赤い大きな提灯をくぐって長い長い参堂が目の前にだった。
「どこが おいしいの・・人形焼って」
「名前は忘れちゃったけど・・もう少し先の右側だったような・・」
「買って食べながら歩けるかな・・」
「うん、たぶん大丈夫。袋に入れてくるはず」
買ってすぐに食べた記憶は、ほんとに小さい時のものだったから少し自信はなかった。
「あっ ここ、きっと、ここだ」
なんとなく見覚えのある店だった。
「ここで、あってるの 1番おいしいところって」
「うんうん。なんか見覚えある」
「食べようっと」
直美の声で お店の中の店員さんに2人で近付いていた。
もちろん、目の前でたくさんの人形焼きを職人さんが焼き上げていた。
とっても甘い匂いがいっぱいだった。
「えっと、餡子入りを 6個と あんなしを6個ください。すぐ食べたいので、袋でください。あっ出来立てをください」
「はぃ、6個ずつですね」
着物姿の、やっぱり下町って店員さんだった。
「うわぁー あったかーい」
お金を払って、直美に人形焼きを持たせたら、うれしそうな声をあげていた。
「あったかいうちに、食べよう、はぃ 劉」
「うゎ」
口に直接だった。
「あったかいのって 初めてかも・・おいしいねー」
「久々だから、おいしいや」
「甘いのけっこう 好きだよねぇー」
「直美も好きじゃん」
「お茶ないかなぁ・・」
「あるよー」
「えっ」
「あそこに 座ろうか」
直美が指差したのはちょっと先のベンチだった。

「はぃ お茶・・」
「ありがとう、どうりで バッグ大きいと思ってたんだよね」
お茶が入った魔法瓶だった。
「だって、人形焼食べる予定だったでしょ、やっぱりおいしいお茶欲しいかなぁって思ったから」
「うん、おいしいや」
「でも、人形焼き食べる為にわざわざこんな人っていないよね・・」
「ここにいるから」
2人で、顔を見合って笑っていた。
「お参りしたらさ、なにするって 俺言ってたっけ・・」
「えっー 忘れちゃったかぁ・・」
「ごめん、わすれたみたい・・」
「お参りしたら、お土産に芋ようかんを買って、それから、隅田川を手つないで散歩して、おしまい・・かな」
「そっか、うん。お散歩しようって 言った、うん」
「あとでね・・」
「うん、お参りまだだもんね」
「お茶のんだらね。ここまで来て、人形焼き食べて、お茶飲んで帰っちゃったら、怒られちゃうわ」
笑いながら、まだ、暖かい人形焼を口にだった。

「ここにベンチあればいいのにね」
隅田川の上の吾妻橋から川の流れを眺めながらだった。
「ここにベンチあったら、取り合いだね、きっと」
「ここって歩道だから、ベンチなんか置けないって・・」
「そっか、でも、あったらいいのにね」
「うん、橋全体にずーっと椅子があったら みんな座ってすごいかも・・」
「たぶん ずらーっと並んじゃうね」
「さ、下に降りて 歩こうか」
「うん、あそこから降りられそうだよ」
階段が橋から下の土手の遊歩道に続いているようだった。

「あそこの 大きな桜まで歩こうか・・」
「うん、えっと、8本目ね・・」
「うん、そうかな・・」
直美の左手を右手につないでゆっくりだった。
寒かったけど、天気が良くて気持ちよかった。
「春になって桜が咲いたら、また連れてきてね、劉」
「うん、綺麗だよね、きっと」
「約束ね」
「うん、お弁当も持ってこようか・・」
「うんうん、小春日和に、ここに座って、お弁当食べようね」
「桜ってここ綺麗だよ、小さい時見たことあるなぁ・・一緒に見ようね」
「うん。でも前の日に 車に飛ばされないでね・・」
「あー 俺が悪いんじゃないから・・」
「その日の前の晩は 絶対に劉と一緒にいようっと・・」
「一緒にいたら、一緒に跳ね飛ばされたりして・・」
「それって 痛そうだけど、一緒に入院なら、いいや、わたし」
「でもさ、病室は別なんですけど」
「2人部屋で、一緒にだよ」
「そっか、ならいいか」
「うん」
お互いにそんな事ってあるわけ無いのに笑いながらだった。
日曜のデートは少し歩きづらかったけど、約束通りに進んでいた。
取り戻すってほどのものではなかったけど、直美らしい退院祝いだった。
作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生