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恋の掟は冬の空

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静かに目を閉じて


「あったかいや、やっぱり劉って・・」
「そうかぁ・・」
「うん」
いつもの左側の胸に直美の頭をおいて話していた。
「いい匂いだわ・・」
「シャンプーでしょ」
「うん」
「これ、好きだよね、劉って」
小さく笑いながらだった。
「あれ、もしかしてさ、俺のためにシャンプーって変えてないわけ、ずっとこれだもんね」
「そんな事ないよ、私もこれ好きだもん」
言われたけど、きっと違うんだろうなって考えていた。
一緒にお店に行った時に違うのも買ってあげようって思った。
「劉って バイトどうするの・・」
「うーん、この前叔父さんに言われたんだけど、叔父さんの会社で働かないかって言われたんだよね。しばらくは椅子で仕事あげるからって・・」
「へー なんの仕事なんだろ・・」
「それは よくわかんないんだけどさ・・でも、なぁー」
「今のバイト先、好きなんでしょ」
「うん、だけどさ、戻ってきていいよって言ってくれてるけど、足が完全に直るまでは立ち仕事だから働けないしね、このままだと迷惑かけそうだからね・・早めにはっきりさせないとだなぁ」
「そっかぁ、けっこう、あそこで働いてる劉も好きだったんだけどなぁ・・」
「働けない間のアルバイト代は、保険屋さんが保障してくれるんだけど、なんか、いつまでも、それって、気分よくないから・・」
「でも、それって劉が気にする事でもないんじゃない・・」
「そうだけどね」
確かに俺のせいではなかったから、気にする事はなかったんだろうけど、なんとなくイヤだった。
「ま、叔父さんに仕事の内容、聞いてみるか・・」
「うん」
「直美はどうなの、しばらく 今のバイトするのか・・」
「うん、好きだし、バイト仲間もいい人多いし・・」
「俺も、あそこの直美はけっこう 好きよ。制服似合ってるし」
「そうかなぁ」
「元気そうだし、働いてる時・・」
「劉と一緒のときのほうがもっと、元気だよ」
目をうっすら開けて返事をしているようだった。

「眠くないの・・もう消灯時間はとっくにすぎてますよ、柏倉くん。 足が痛いのかなぁ・・大丈夫ですかぁ・・」
「えっと、足は痛くないんですけど、なんだか、ドキドキして寝れません・・直美さん」
「ズキズキ痛むんじゃなくて、ドキドキなんですかぁ・・お薬ないですよ、それって」
「お薬はいりませんから、このまま こうしててください。ドキドキはいいんです、ずっとでも」
「ドキドキうつっちゃいました、わたしも・・」
「寝れなくなっちゃいますよ・・」
「いいですよー 寝れなくても、ドキドキはずーっとしていたいですから」
顔を少し動かしてこっちに向けながらだった。
「これで、どうですかぁ」
抱き寄せて、顔を動かして直美のおでこにキスをしていた。
「うーん、どうかなぁ・・ドキドキも直らないし、ニコニコみたいですよ」
「ニコニコはこっちもです」
「でも、すごーく なんだか、ほんわかです」
頭も体も少しこっちにで、なんだか、ふざけあっていた。
もちろん いっぱいキスもして。

「寝ちゃいなよ、もう・・・今日はいそがしかったから・・」
「うん、劉もね」
「つかれただろ・・」
「平気だけど、なんかすぐに寝ちゃいそう・・」
たぶん口を動かさないで、静かにしていればすぐに直美は寝付くはずだった。いつもとっても寝つきのいい子だった。
うっすら目を開けて、直美の息遣いがゆっくりになるのを聞いていると、昨日の晩まで病院のベッドにいたことがずいぶん昔のように思えるほど不思議な感覚だった。
でもそれは、なぜだか 自然で、ゆっくりで、明日になって目を覚ましら、車にはねられて入院してたなんて事は夢の話で、あの日から今日までをすっかり忘れていそうな、そんな自分がいるかもしれないような感じだった。
「ぅうーん」
少しすると体をすこし動かしながら、小さな声を直美が出していた。
直美も自然な感じで、ゆっくりと寝入り始めたようだった。
まるで、なにもなかったようにだった。

静かに、うっすらあけていた目を閉じて、ゆっくり息をはいて、彼女の寝息の心地よさをしみじみだった。
大切なものは何も失っていなかった。
伝わる暖かな心が返事をしていた。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生