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恋の掟は冬の空

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バタバタと日曜の退院の始まり


「おはようー 遅くなっちゃった」
小走りで病室に駆け込んできた直美の声が退院の日曜の朝の始まりだった。
時間は9時を少しだけまわっただけだったから、遅くなっちゃったって言うほどの時間じゃなかったし、車の迎えの予定は10時だから逆に早いくらいだった。
「おはよう、まだ、ゆっくりでいいよ」
「でも、荷物まとめなきゃ・・あれ、やっちゃったか・・」
「うん、だいたい終わったんだけど、バッグたりないや・・」
「はぃ、これ、持って来たから・・」
直美の手に大きなスポーツバッグだった。
「それに入れたら終わりだね」
「うん、じゃあ 片付けちゃうから、劉はもう着替えちゃいなよ」
カーテンを閉めながら言われていた。
一緒におはようのキスもされながらだった。
「これで、もう忘れ物とかないかなぁ・・大丈夫なの」
ベッドの横の小さな机の引き出しと扉を開けながらだった。
「うん、そこ、さっき見たから」
「うん、大丈夫みたいだね、思ってたより荷物すくないね」
「そうだね、俺もさっき思ってた」
「うん、じゃぁ、叔父さんたちを待ってるしかないかな・・」
「お茶でもしてようか」
時間はまだ、9時15分だったし、車が来るまではとりあえずはすることは何もなさそうだった。
「劉のおにーさん 来るんでしょ・・」
「言ってたけど、別になにも用事ないんだけどなぁ、4回ぐらいしかここに来なかったくせに・・」
「そんな事言わないの、おにーさん、私に電話で謝ってたわよ、バイトでなかなか病院にいけないけどって・・」
「ま、来てもらっても兄貴じゃたのむこと全然ないんだけどね・・」
「また、そんな事いう・・」
「だって そうだもん」
近所に住んでいるくせに、事故った夜中と次の日に田舎のお袋が病院にあわてて飛んできた日と、日曜に2回ぐらい彼女と一緒に遊びに来たぐらいで、たぶん2週間以上はあってないはずだった。
「私も しばらくあってないや、劉のおにーさんと」
「俺もだけどね」
笑われていた。
「挨拶でもしてこようかなぁ」
「ナース室いくの・・」
「いや、ここの知り合いの人たち」
「そっかぁ、そうだね、挨拶しなきゃね・・」
「うん、ちょっと病室1周してくるね、すぐに帰ってくるから待っててよ」
「うん、でも、夕子ちゃん来ないから見てこようかな」
直美が来る時間を昨日から気にしていたのに、この時間になっても病室に現れていなかった。ちょっと不思議な感じだった。
「うん、じゃあ、俺は挨拶終わったら、ここに戻ってるから」
「うん、わたしもね」

病室と、ロビーをまわって、病棟仲間に挨拶をして部屋に戻ると、時間は9時40分になっていた。
もう、直美が戻っているのかなぁって思いながら戻ってきたけど、
待っていたのは、兄貴だった。
「どこ いってたのよ」
「挨拶にね、いろいろと・・」
「そっか、叔父さんまだかな・・10時に来るんだっけ」
「うん」
「会計どうすんだ、叔父きにまかせていいのか・・田舎の親父から金預かってきてるけど」
「まだ、示談取り交わしてないんだけど、保険屋が先払いで医療費とか全額払ってくれるらしいから、任せていいらしい、叔父さんの会社の弁護士を間に入れてるから・・」
「そうか、ま、叔父さんに俺からも聞いとくわ。で、荷物ってこれだけでいいのか」
「うん、それだけだよ」
「じゃあ、俺はあのロビーでお茶してるから、叔父さん来たら呼んでくれる・・」
「うん、いいよー」
言い終えると、お菓子の箱らしいものを出して、看護婦さんたちと、ここの子たちにって、デパートの袋を置きながら、ロビーに向かっていた。
「えっと、これ、お世話になったお礼だから、食べてね・・たぶん食べ物だと思うんだけど、兄貴が買ってきたからわかんないや」
「すいません、いただきます」
3人ともベッドに寝た生活だったから、ベッドからお礼を言われていた。
「なんかー いいなぁ・・」
浩君に大きな声で言われていた。
「ま、お前らもおとなしく寝てれば、すぐだからさ・・」
ありきたりの言葉ぐらいしか出ていなかった。
「はぃはぃ、おとなしくもなにも、ほとんどベッドから動けないからだですから・・」
浩君が笑いながら答えていた。

「おはようー 劉ちゃん、どれ、もう準備できてるのかぁ・・」
大きな声が病室の入り口から響いていた。
「叔父さん すいません」
「いやー いいのよー 迎えの車を出すぐらい」
「叔父さん、すいませんついでなんですけど、声ももう少し小さめで・・病棟だから、ここ・・」
「おっ 悪い悪い、くせだからさー」
まだ 大きな声で笑っていた。
「にーちゃんもさっきから来てるんですけど、ロビーなんですよ・・」
「そっかぁ、じゃあ、のぞいて1階で支払いしてきちゃうから、病院代・・」
「なんか その辺の話もしたいって 言ってたんで・・叔父さん来たら声かけて欲しいって」
「そっか、わかったわ」
叔父は今日も早口で大声で、廊下を歩き出していた。
わかっていたけど病院には1番似合わないタイプだった。

なんだか、やっぱり予想通りバタバタした退院が始まっていた。
夕子と話し込んでいるのか直美が戻って来ていないのが、少しだけ気になっていた。


作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生