恋の掟は冬の空
眺めるものより
「夕子ちゃん 勉強するなら手伝うけど、どうする・・」
「今夜はいいですよー そんなとこに座ってる人に時間くださいなんて言えないですよ」
笑いながら直美にだった。
「平気なのに・・」
「こっちが、平気じゃないですって・・」
首を小さく横に振りながらだった。
「さ、帰ろうかなぁ、明日は直美さんは何時ごろ来ますかぁ」
「9時過ぎかなぁ」
「では、その頃に遊びに来ますね」
「うん。ほんとに今日は勉強いいの・・」
「はぃ、大丈夫です。こう見えてもきちん毎日と勉強してますよ。では 帰りますね、おやすみなさい、手袋とお守りありがとうございました」
言いながら、上手に1人で車椅子に座り始めていた。
「うん、夕子ちゃんおやすみ」
直美と一緒に手を振っていた夕子におやすみを口にしていた。
「あのお守りもってたんだ・・」
「うん。あっ 劉はどっかにやっちゃったの・・」
「うーん 机の中にあるかなぁ」
そんな気がしただけで、自信はなかった。
「もらったものなのに貸しちゃったけどいいよね、夕子ちゃんなら」
「うん」
それで 受験の手だすけになるんだったら、なにも問題なんてなかった。
「劉、明日は叔父さんの車が迎えに来るんだよね」
「うん。断わる理由ないし、甘えておきます。10時頃に来るって言ってた。うちの兄貴も10時前に来るって言ってた。田舎のお袋は来るって言ったんだけど、疲れちゃうだけだから断ったけどね。」
「劉のおかさーんからは、今朝電話あって、劉に来なくていいって言われたから悪いけどお願いしますって電話もらったから、大丈夫ですって答えといたよ。さびしそうだったよ、少し・・」
「でも、大変だからさ、いいよ」
東京に口実つけて遊びにも来たかったんだろうけど、何日か泊まられても面倒だった。
「明日のお昼って、聖子おばさんの事だから赤堤でだよね」
たぶん、帰る途中で赤堤に寄っていくことになるんだろうなって思っていた。
「そうじゃないかな、それもいいでしょ、ご馳走いただいて、休んでから帰ろうよ、マンションには・・」
「うん、でね、夏樹が夜は部屋で みんなで鍋でも囲んで退院祝いしようって・・」
「そっかぁ、いいのになぁ・・」
「うん、でも、一緒に食べようよ、せっかくだから」
「いいよー」
「はぃ、 夜は劉の部屋でみんなでお鍋ね」
にぎやかになりそうだった。
「うん。あのさ、ちょっと病院抜け出さないか・・」
「えっ・・」
時間は、6時40分になっていた。
「どこいくのよぉ 怒られないかなぁ・・」
「大丈夫だって、うーん 早く帰ってくればかな・・」
言いながら、立ち上がってセーターとコートを手にしていた。
「ほんとに いくの・・」
まだ、ベッドにちょこんって座って、呆れ顔だった。
「うん。すぐに帰ってくれば、平気だって・・」
「うーん。もう、しかたないなぁ、じゃぁ 抜け出しますか・・おもしろそうかも」
すこしだけ 笑っていた。たぶん反対しても俺が言い出したら聞かないこと知ってるからだった。
ナース室の前を、下まで送ってくるだけですからって顔で通り過ぎて、玄関の前にいくとちょうどタクシーが1台とまっていたから、近くでごめんなさいって運転手さんに言って、西口の高層ビルに向かっていた。
「どこいくの・・」
「うんとね、ここの上の階でお茶しようか」
タクシーを降りて高層ビルの中に入りながらだった。
「えー」
「45階だったかな、お茶だけでも平気だから・・」
「贅沢しなくていいのに・・」
「1ヶ月以上もこのビル眺めて 我慢したんだから、復讐かも・・」
笑いながらエレベーターのボタンを押していた。
「なに、それ、・・」
エレベーターの中だったから小さい声で言い返されていた。
フロアーについて土曜の夜に混雑していた店を覗き込むと、案内係りの人に声をかけらて窓際の席を希望すると混んでいたのに席につかせてくれた。
とんでもなく 運がよかったみたいだった。
「わぁー 綺麗だねぇー」
席に歩きながら腕をとりながら直美が声をだしていた。バーラウンジの中は暗くって、ここから冬の夜空が遠くまで続いているようだった。
「あ、三日月がだんだん 半月に近付いてきたね、早いなぁ・・」
窓際の椅子に座って、低い位置だったけど月が輪郭をはっきりと出して輝いていた。
「あっという間に半月になりそうだね、お正月過ぎたらきっと満月になっちゃうね、劉」
「うん、今日は少し寒いから星もけっこうみえるね、直美は星眺めるの好きだけどさ、星座の名前とかわかるの・・」
「ぜんぜん、わかんないよ。冬の北の星なら少しだけだね・・」
「そっかぁ、でも大好きだよね、星とか月・・」
「星はね、眺めてると、気持ちがいいの、それだけなの・・青空も気持ちよくて眺めちゃうのと一緒ななの」
「ふーん、 そうか」
「うん、それに、一緒に眺めるとしゃべらなくたって 気持ちが一緒になれるでしょ、ね、劉」
手を握って言われていた。
「うん」
「想ってる人と別の場所で離れてみてる時は、眺めてれば一緒に隣にいるような気がするし」
手を握り返していた。
「うん」
「こんなところじゃなくても私は、劉が横にいれば、どんな場所からの夜空も大好きだよ、星が輝いてなくたって・・もちろん青空見上げるのも劉が横にいれば場所なんてどこだっていいよ」
顔も見つめられていた。
「うん、俺もかも」
「この1ヶ月近くは、ずっと1人で見てたから 明日からは一緒にね。1人で眺めるのは疲れちゃうんだもん」
「うん」
グラスを傾けて遠くの空を見つめた直美にグラスを傾けながら返事をしていた。
外に出て上を見上げると都会のビル群の中に狭い夜空が広がっていた。
確かに横に直美がいれば場所なんてどこでもいいようだった。
手を握りながら、「ね、そうでしょ」って顔の直美が横でにこにこしているようだった。
タクシーで駅まで直美を送ってそのまま病院の玄関に横付けしたのは8時ちょうどだった。