恋の掟は冬の空
並んで
麗華さんが、帰ってから、退院の準備の荷物の整理をして、読みかけの本を読んでいるといつの間にか寝込んでしまっていた。
起こされたのは、浩くんにだった。
「あのう、寝すぎですって・・もう、夕方ですよ」
ベッドの上から大きな声だった。
「えっ、俺ってそんなに寝てた・・」
「よく寝れますよね・・今日はお見舞い客いっぱいで、あんなうるさかったのに」
たしかに、寝ちゃうまでは、土曜だったから 3人の高校生には友達ががそれぞれ遊びに来ていてにぎやかだった。
「めずらしく今日は、柏倉さんところにお見舞いの人って来てないですよねぇ・・明日退院だからですかね」
「お昼に来てたんだけど、ロビーで会ってそのまま 別れたから・・美人だったから、こっちに連れてくればよかったね」
「えー ひどいっすよ、連れてきてくれなくっちゃ」
「でも、綺麗な人だから彼氏いるしね・」
「そんなのは いいんですよ、綺麗な人は見たいっすよ」
真剣な顔にけっこう大笑いだった。
「あ、でも、夕方来るんでしたっけ・・」
「うん、直美でしょ、もうすぐじゃないかなぁ、今日は一緒にお弁当食べる約束したからね」
「うわぁ いいなぁー、お袋でいいから俺も、弁当今度頼もうかなぁ・・足らないんだよね量がどうにも・・」
「浩君じゃ、足りないよね・・」
「痩せそうですよ、ここで」
「少し痩せてもいいんじゃないかなぁ」
「それが、お腹ぺこぺこなのに 運動してないから体重は変わらないんですよ・・痩せると困っちゃうんですよ、おれってバックスじゃないから、重くていいんですよ」
「なるほどねーそっかぁ」
「でも、足は筋肉落ちたみたいだなぁ」
俺でさえそれは感じていたから、事故るまで、ほぼ現役でラグビーしていた浩君なら、なおさらのはずだった。
「あっ 夕飯来たみたいですよー」
廊下から配膳の音が聞こえて近付いてくるようだった。
「あっー 間に合ったぁあ 良かったぁー」
部屋に夕飯が運ばれだすと同時に直美が走りこんできていた。
「ぴったりだぁー」
「走るなってば 病院なんだからさー」
「足はやいの 工藤主任に見せちゃった・・はぃ、お弁当。今日はここで食べようか」
「うん、お湯沸かしてポットに入れてあるから」
「うん、インスタントお味噌汁も買ってきたから」
買い物袋を広げ出しながらだった。
「お、いいねー」
「あー、 高校生にお土産があるんだけど、これ・・」
「配ってあげてよ」
「うん」
大きな袋を持って、返事だった。
「聞いてねー えっと明日でおかげさまで、劉は退院になりました。みんなにお世話になったお礼に ケンタッキーお土産持って来たから、食べてねー」
「うぉー たまんねー 」
浩君を先頭に、みんなで声をあげていた。
「はい、全員にあるからね、ちょっと待ってね」
1箱づつみんなに、頑張ってねって言いながら配っていた。みんなうれしそうな顔で受け取って、はしゃいでいた。
「もう、最高です、いただきまーす。ありがとうございまーす
みんな夕飯がテーブルの上にあったのに、ケンタッキーから食べ初めていた。
それを眺めてうれしそうな直美だった。
「さ、私たちも食べようかぁ・・喜んでもらってよかったぁ・・」
「うん、良かったね、ありがとうね、約束してたのに、この子達に昨日お土産買ってくるの忘れちゃったからさ、俺」
「そうだと思ったんだ・・気が利くでしょ 私・・」
ほんとにそうだった。
「はぃ、リクエストの おこわ だよー 暖かいからいいでしょ。これが山菜で、こっちが贅沢だけど松茸、半分ずつね」
蓋を開けるとまだ湯気が出るほどあったかだった。
「ねぇ わがまま 言っていい・・」
「え、なに・・」
なんだか 窓際のカーテンだけ残してベッドの周りのカーテンをきちんと閉めだしていた。
「あのね、そこに並んで食べたいんだけど・・」
「ここ・・・狭いけど・・」
「うん、狭いからくっつけるでしょ・・触りたいんだもん、劉に」
言いながら もうベッドに登って横に座っていた。
笑って うんってうなづいていた。
狭くてどうにも食べづらかったけど、やっぱり、直美の笑顔のほうが勝ちだった。