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恋の掟は冬の空

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いるだけで


「ねぇ 何時にここ出ちゃうの・・」
ゆっくりの朝ご飯を食べて、直美が好きなミルクたっぷりのコーヒーを2人分入れていつものソファーの前でゆっくりしていた。
「夕方でいいよ、時間は決めてないから・・ねぇ、ほんとに自転車を見にいくの・・」
「うん、いこうよ、どこに行ったら、同じの見られるの・・」
「新宿のデパートで買ったんだけど」
「じゃぁ、病院の前にのぞいてみようよ」
「うん、いいよ」
良いよっては言ったけど、自分の好きな色が買えるかどうか、少しだけ不安だった。
「それまでは、どこにも出かけないでいいの・・」
「うん、のんびりがいいや。でも直美がどこか行きたいなら、いいけど」
「ううん 別にないよ」
「お昼のときに散歩だけしようか・・」
「うん、豪徳寺のお寺ぐらいまでいってみようか」
朝と夕には静かな鐘の音が決まった時間に響くお寺で、歩いて5分もかからない距離だった。
寒いだろうけど、境内もそこそこ広かったし、直美も俺も好きな場所の一つだった。
「うん、それまではゆっくりしようかぁ」
うなずいてソファーを背に足を伸ばしていた。直美は編みかけの靴下を手にとって、編み目を器用にたしはじめていた。

お昼過ぎにお寺までお散歩して、帰りにはファミレスで食事をして家に戻ったのは2時半になっていた。
それから、さすがに夜更かししたから、2人で毛布にくるまって一緒にお昼寝をしていた。
起こされたのはずいぶん時間がたってからだった。
「そろそろ起きないとだよ、劉も飲む?」
コーラが入ったグラスを差し出されていた。
「何時なの・・」
「4時過ぎちゃった。わたしもぐっすり寝ちゃったみたい」
「そっかぁ、まぁ、夕方に戻るって、出てきたけど、消灯時間までに戻ればたぶんいいはずだから・・」
「そっかぁ、じゃぁ平気だね」
「うん、あとで病院に電話いれておくから・・」
出されたコーラがおいしかった。
「あわてなくてもいいね。それなら・・」
「うん、1人でも帰れるから大丈夫だよ」
「送ってくよー 自転車も見るんだもん」
送ってもらうのはうれしかったけど、病院からまた1人で直美がここまで戻ってくるのは、かわいそうだなって思っていた。それはいつもお見舞いにきてくれてたときにも思っていたことだった。
だから、今日はデパートまでは一緒でも、そこからは直美が帰る所を見送って病院には1人で戻ろうって、考えていた。
「うん。じゃあ5時ぐらいになったら出かけようか・・」
「あっ じゃぁ、着替えようかなぁ・・」
「えっ、それでいいんじゃないの」
「あれ、昨日、オーバーオール着てあげるねって言ったじゃない。久しぶりに着てみようかなぁ。たぶん、どこかにあるはずだから。こっちに来てから着てないけど、しまってあるもん。取りに行って来るね」
「良いってば、別に今日じゃなくたってば・・」
「自分でもちょっと着てみたいから・・」
言いながらもう直美は3階の自分の部屋に向かって歩き出していた。

「ただいま、どうかな・・こんな感じだったと思うんだけど・・オーバーオールの下もこれだったような気がするんだけどなぁ・・」
「そそ、たぶんそれ。かわいかったなぁ・・」
「かわいかったなぁぁじゃなくて、今もでしょう、まったく・・」
髪型は変わっていたけど、去年の秋に一緒に歩いた時と服装はまったく一緒だった。
「うんうん。今日もかわいいよ」
「そそ、そうでしょ」
自分で笑いながら相槌を直美はうっていた。
「ちょっと化粧するね」
「いいじゃん、それで・・」
「やだぁ 少しはしないと・・でかけるのに・・」
もともと、そんなには化粧はしてなかったから別にしなくてもいいのにって思っていた。
「ねぇ、そのトレーナー着ていきなさいよ 劉は・・」
「いくらなんでも、それは・・」
「じゃぁ 持っていって病棟で着ようよ、それ結構かっこいいよ」
「名前入りなんて、へんだってば・・」
「えー おかしくないのに・・」
「そっかなぁー」
着ていたトレーナーを見ていた。
直美は化粧をしながらだった。
「スエットパンツ新しいのあるかなぁ・・履き替えて帰ろうかな」
「向こうにたたんであるよ、ちょっと待って、終わったら持って来るから・」
「いいよ、自分で取って来るから、あっ 杖ついていくから・・」
「うん」
隣の部屋に向かっていた。
洗濯物は綺麗にたたまれて、わかりやすいように整理されていた。
直美らしかった。
「わかったかなぁ・・」
化粧が終わって追いかけてきたようだった。
「うん、ありがとね。この1ヶ月ちょっといろいろ迷惑かけちゃったね。直美がいてくれてほんとに助かった」
「そんなことないって・・」
「いや、ほんとにありがとうね」
「劉のほうが 大変だったんだから・・わたしは何も出来なくて・・」
「そんなことないよ、いろいろうれしかったから」
「いっぱい、劉のそばにいたいだけだよ・・」
「うん、ありがとうね」
なんだか、どうにも抱きしめたくなって直美を抱きしめていた。
ゆっくり直美の手も背中に回ってとっても気持ちが良かった。
「よかった直美を好きで・・」
「わたしも」
初めて直美を抱きしめた時のように胸がいっぱいだった。

「化粧落ちちゃった・・」
小さな声で言われていた。


作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生