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恋の掟は冬の空

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何よりも、なによりも


10分ほどそのまま直美の頭を抱き寄せてから、小さな声を出して背もたれになっていたソファーに直美の体を横にしていた。
「ちょっとここで休んでて・・少し 寝てていいから・・」
おでこをなでると、直美はうなづいてゆっくりとうっすら開けた目をもう1度閉じていた。
静かに起こさないように、テーブルの上を片付けることにした。
さすがに七面鳥は残ったけれど、ケーキは綺麗に直美が全部食べきっていた。酔ってたからなんだろうけど、子供の頃からいつかクリスマスケーキを1人でいっぺんに丸々食べたかったんだよねーって言いながらだった。
4分の3は彼女のお腹にだった。

寝顔を後にして、片付け物をして、お風呂のお湯の蛇口をひねっていた。足音を立てないように静かに壁に手をついたりしながらの移動だった。
洗面台に写った自分のトレーナー姿を見ながら、少し太ったなぁって思っていた。これをよく来ていた頃から比べると体重は5kgも太っていた。運動もしないのに食べる量はまったく変わらなかったから当然だった。
毛布を抱えて直美のそばに戻ってかわいい寝顔と寝息を聞きながら時間を過ごしていた。お湯がが溜まっても起こすのはかわいそうなほどに寝入っているようだった。

10分もしない間にお湯を止めに行って、また直美の横に戻ってきていた。
「どうする・・お風呂入って寝ちゃうかぁ・・それともしばらくこのままがいいかぁ」
聞こえなくてもいいかなぁって思いながら小さな声でつぶやいていた。
「うん、入るよぉ」
眠そうな顔で言いながら両手を伸ばして来て掴まえられていた。
「今、はいるから 少しだけこうしてて・・」
「うん、いいよ」
寝ちゃうかなぁ、またって思いながらも優しく抱きしめていた。
「寝ないから 大丈夫だよ」
心配が伝わっているようだった。
「このまま、少しだけ・・甘えたいだけだから。離れてた時間あったんだからいいでしょ・・それとりもどしても」
顔は見えなかったけど、かわいい顔を想像していた。
しばらく 直美が話し出すまでそのまま静かにあったまっていた。
「さ、入ろうかなぁ、がんばって起きないと朝までここで寝ちゃいそうだもん」
「先に、劉が入ってもいいよ・・」
「いや、俺、足にビニール巻くから先に入っていいよ。時間かかるから」
「わぁ 見たいなそれ」
体を起こしながらだった。
「別にいいよ、入る時に見せてあげるね。昼間に入った時もけっこううまく出来たから・・」
「じゃぁ 先に入っちゃうね、ごめんね。劉の着替えも向こうに出しとくから」
言いながら、けっこうしっかりした足取りで着替を探して風呂場に向かっていくようだった。
「寝ちゃったりしないでね、お風呂場で」
「寝ないってば・・」
離れた場所から笑いながら声を返されていた。
それを聞きながら足にまく、スーパーの買い物袋を手にしていた。
水の音がお風呂場からもれ始めていた。

お風呂場から直美が出てくるドアの音が聞こえて来た頃には、ビニールぐるぐる巻きの足は綺麗に出来上がっていた。
「あがったよー 入っちゃっていいよー」
声を出しながらパジャマに着替えた直美が頭にタオルを巻きながら歩いてきていた。
「はぃ こんなんですけど」
ソファーの前で左足を上げていた。
「うわぁ それなら中にお湯入らないかもね。湯船にもつけちゃうの・・」
「大丈夫だとは思うけど、漏れたら困るからやめとくわ」
「そうだね、我慢してね・・・わたし体洗ってあげようかぁ・・」
「えっ・・」
「だって、洗いづらいでしょ」
冷静な口調で言われていた。
「うーん やめとく 大丈夫だから・・全然大丈夫だから」
「恥ずかしいんでしょ、大丈夫だからじゃないでしょ」
「大丈夫なの」
「はぃ、はぃ そういうことにしておくね、でも、気をつけてね」
「大丈夫なんだって、それも」
言いながら、あわてて風呂場に向かっていた。
一緒になんて1回も入ったことがなかったのに、こんな格好でなんか、勘弁してくださいだった。
「髪の毛乾かしたら、寝てていいからねー、もう遅いから・・」
「うん。ゆっくりでいいからねー ちゃんとあったまってね」
ドライヤー片手の直美に言って、言われてだった。

「まだなの・・」
ベッドのある部屋に戻ると、俺の机の椅子に座って、まだなにかしているようだった。
「おわるよー あ、きちんと退院までには片付けておくからね、これも」
机の上には直美の学校関係の本がけっこうな高さで積まれていた。
「うん、まぁ、ゆっくりでいいよ」
「ありがとね」
「さ、早く寝ないと3時になっちゃうよ・・」
ベッドを指差してだった。
「わぁ、ほんとだ。その足でいつものこっち側でいいかなぁ・・」
「うーん、いいんじゃないかなぁ・・ただ、蹴飛ばしたら俺より直美の足が痛いだけだな・・」
一緒の時には、いつも直美は俺の左側で寝ていた。
「痛いかなぁ やっぱり・・」
「だいじょうぶだって」
「試してみようっと・・早く劉も入って・・」
言われてあわてて電気を消していつものベッドの位置にもぐりこんでみた。
「ちょっと、軽く蹴ってみるね・・」
「うわぁー、痛てぇー」
「やだぁー、うそでしょー」
笑いそうだった
「うん、うそ、ごめん、で、ちょっとそのまま俺のほうに足出してみて・・」
「あっー 重いってばー」
ギブスの足を直美の足に乗せてみた。
「寝ててこの状態に気をつけたほうがいいかも・・」
「やだぁー 絶対乗せないでよぉー 知らなかったぁこんなに重いんだぁ・・」
「重くて寝ながらなんて足上がらないから、大丈夫だって」
足を下ろして笑っていた。
「もう、まったくぅ・・」
言いながら頭を左の胸に寄せてきていた直美を抱き寄せていた。
暖かな、本当のクリスマスプレゼントを抱きしめていた。
何よりもうれしいクリスマスプレゼントが腕の中にあった。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生