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恋の掟は冬の空

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三日月に向かって


「ここで、少し待っててね。叔母さんに鍵を返して、挨拶してくるから」
赤い自転車にまたがって子供みたいにうれしそうな顔の直美と教会の正門まで歩いていた。
「私も一緒にいこうかぁ・・」
「自転車あるから、寒いけど、ここで待ってていいよ。すぐに戻って来るから」
「じゃぁ、私からも叔母さんによろしく伝えてね」
「うん」

聖堂内に叔母の姿は見当たらなかったから、隣の部屋を覗いてみると、まだ多くの信者さん達が食事と歓談をしているようだった。
叔母はちょうどステファン神父と話をしていた。
「おばさん、ありがとうございました。直美が自転車を今夜、持って帰りたいって言うから、このまま帰りますね」
「あら、そう、少しここでなにか食べていったら・・」
「今夜は遠慮しておきます。自転車押しながらゆっくり帰りますから・・」
「平気なのその足で・・誰かに車だしてもらいましょうか」
「いえ、平気ですから」
「そぉ・・直美ちゃん喜んでたかしら・・」
「うれしそうに、自転車にまたがってました。リボンまでありがとうございました」
「いいのよー、よかったわ。直美ちゃんが喜んでくれれば。外でまってるのかしら・・」
「あ、はぃ。入り口のところで・・・」
「じゃぁ 直美ちゃんによろしく言ってね。気をつけて帰りなさいね。お正月は一緒に遊びに来なさいね。あ、それから日曜日は主人と10時頃に病院迎えに行くから待ってなさいね」
「はぃ、ではおやすみなさい。直美もよろしく言ってましたから」
叔母さんの家の鍵と立て替えてもらっていた自転車代の入った封筒を手渡して頭を下げていた。お金を準備しておいてほんとに良かったって思っていた。
「あんさん、帰りますのか・・」
叔母の後ろにいたステファン神父さんに声をかけられていた。
「はぃ。今夜はおじゃましました。ありがとうございました」
「直美さんは、外でまってますのか・・」
「はぃ 門のとこで」
「ほな、寒いよって、はよいきや。また一緒に遊びに来なはれ」
「はぃ 遊びじゃなくてお祈りに伺います」
巨漢を揺らしてステファン神父は大笑いをしていた。叔母も一緒になって笑っていた。
「無理せんでよろしいわ、あんさんの場合は、遊びでええがな」
言われて、笑いながら頭を下げていた。叔母にもだった。

その部屋の奥のドアを開けると裏庭に出る事ができた。
それは、うっすらな子供の時の記憶どおりで、少し歩くと小さなキャンドルの明かりがたくさん揺れている小さな墓地が目の前だった。
従兄弟の詩音の名前が刻まれた白い石の十字架が明かりの中で浮かんでいた。
 えっと、足がこんなで、久々だわ。車にはねられたけど、なんとかこんぐらいで済んだのは、詩音のおかげかねぇ。ありがとね。 昔、お前と子供の時に見たミサ見たくてさ、遊びに来たわ。もう、今夜は帰ちゃうけど、また、遊びに来るわ。叔父さんも叔母さんも、元気そうだから、心配すんな。じゃあな。今度来る時は、花じゃ似合わないから、子供の時に良く一緒に食ったチョコパンでも持ってくるわ。懐かしいだろ。あのなんかとんがってるやつな。 うんじゃ
 帰るね、詩音。いいクリスマスを  アーメン

白い十字架の頭をたたいて、振り返って驚いていた。
「やっぱり、ここだった。ちょっと遅いからここかと、思ったらやっぱりね」
「ごめんごめん。待たせちゃって・」
「はぃ 使って。暗いからよくわかんないけど」
ハンカチを出されていた。
黙って受け取っていた。どうにもこの場所だけはだめな俺だった。
横で黙って直美はお祈りをしていた。
「じゃぁ 帰ろうか。冷えちゃったね、体・・」
「うん、平気だって・・・帰り道ってわかるんでしょ・・」
「大体だけどね、世田谷線沿いに帰れば大丈夫だって。あ、あの三日月の方角だよ、きっと」
「大丈夫かなぁ。そんなので・・月も動くんだよ・・」
「そんなには早くはうごかないだろ、きっと・・」
笑われて、笑っていた。

自転車をたまに走らせては、立ち止まったり、横で一緒に自転車を押しながらの直美だった。子供の時の直美って知らなかったけど、こんなだったのかなぁって思ってうれしそうな直美を見ていた。
「ねぇー 劉の自転車は・・」
「俺は、足が治ったら買おうかなーって思ってるんだけど・・」
「一緒にサイクリングしようね、駒沢公園なんてきっと、すぐに着いちゃうよ、これなら・・天気がいい日はあっちこっちでかけようね。お弁当作ってあげるから。おっきなお弁当ね」
「ギプス取れても、すぐには自転車無理だと思うよ」
「うん。でも、治ったらすぐに どっかに行こうね。どこいこうかなぁ」
明日にでも一緒にサイクリングに行きたそうな顔だった。
「治ったらじゃなくて、退院したら買いにいこうよ、劉のも・・いいでしょ。それで、自転車を部屋に並べておこうよ。私のだけだとなんかさみしいもん」
「うん、いいよ。でも2台も並べたら部屋狭くなるぞ」
「大丈夫だって、きっと」
大丈夫って直美が想像してる部屋はきっと5階の俺の部屋のような気がしていた。
「ねー 三日月ってあっちだよ、劉」
「道ないでしょ、そっちは。いいのこっちであってるから」
まるで 子供になっていた。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生