恋の掟は冬の空
洋館で真っ赤なプレゼント
「言ってきたよー。もう少しご馳走になるから待ってようかって言われたけど、大丈夫って言ってきたから。仲良くお菓子食べてた、あの二人・・」
急いで戻ってきたようだった。
「お腹はすいてない?大丈夫・・」
もうすぐ11時になろうとしていた。
「まだ 大丈夫だよ、夕方の休憩時間に少し食べたから・・」
「そっか、もう少し我慢してね。ごめんね」
「ううん 平気。さぁ、叔母さんち行こうよ」
右手を軽く握られていた。
聖堂内は少し人が減りだしていたけど、まだ、たくさんの信者さんであふれていたから、端のほうを通って表に向かって歩いていた。
何人かの若い神父さんに二人で挨拶しながらだった。
「ねぇ 叔母さんちに何の用なの・・」
聖堂を出ると直美に聞かれていた。
「うーん。ちょっとね。すぐ済んじゃうから」
言ってもいいけど、やっぱり内緒にしてた。
「ふーん。ま、いいかぁ」
腕を組んで芝生の上を歩いていた。寒かったけど触れている直美の体は暖かだった。
「間に合ってよかったね、ミサに・・来たかったんでしょ」
「うん。諦めてたんだけど直美に見せてあげようかなぁって思ってたから・・でも俺も久々だったからすごく良かったわ」
「うん。すごく、よかったよ、ありがとう劉」
庭に飾られたたくさんの電球の明かりで直美の瞳がキラキラ輝いて綺麗だった。
「足先は平気かなぁ・・もう1足の靴下まだ編んでる途中なんだよねぇ」
「昼間見たよ、それ。直美ってずっと俺の部屋で寝起きしてるでしょ・・」
「やだ、ばれちゃったかぁ。なんとなく劉の部屋がいいんだよね。だから、ずーっと」
「退院したら、ずーっとは駄目だからね・・」
「はぃはぃ わかってます」
少しだけすねたみたいだったけど笑顔だった。
「家の中に電気ついてるけど、誰かいるのかなぁ・・」
教会の隣の叔母の家の玄関まで来ていた。
「誰も いないと思うよ。無用心だからつけてるんじゃないかなぁ」
「そうかぁ、そうだね。大きな洋館だものね」
「おじゃましまーす」
誰もいないのはわかっていたけど、鍵を回して玄関の中に入りながら声を出していた。いっしょに直美もだった。
「あがって、」
玄関に座って直美を見上げながら履いている右足だけの靴を脱ぎながらだった。
「うん、わたしもなんでしょ」
「持ってこれないからさ・・一緒に上がって、見て欲しいんだよね・・」
「うん」
うなづいてたけど、なんだろうって直美の顔だった。
真っ直ぐ進んで、左に折れると窓際の廊下にでるはずだった。
直美は少し遅れて後ろからついてきていた。
「あっ ちょっと止まって」
振り返って、廊下の角で立ち止まりながら直美に声をかけていた。
「えっと、恥ずかしいんだけど 少し目をつぶって、直美・・・」
「いいよぉー」
微笑みながら目を閉じていた。
「いいかな 歩くよ、大丈夫かなぁ・・まだ、開けないでね」
直美の手を取って角を曲がって窓に面した廊下をゆっくりと3、4歩だけ進んでいた。
「何にしようかいろいろ悩んだんだけど、・・直美にクリスマスプレゼントです、どうぞ。見ていいよ・・」
「うわぁー これって私になの・・・ほんとにぃ・・」
「うん」
「いいのぉー ありがとう、劉。直美欲しかったもん」
なぜか大きなリボンが付いていたのは叔母が気をきかせてのようだった。
「赤い色で良かったかなぁ」
「うん。赤い色がいいの、この自転車欲しかったんだもん、ありがとう。入院してるのに劉・・すごくうれしい」
振り返って抱きつかれていた。不安定だったけど直美を抱きしめていた。
久しぶりに抱きしめた直美はすごくやわらかで、触れる髪に頬を寄せていた。
「これって何段変則なんだろう、12段なのかなぁ・・」
「やだ、劉って知らないのぉ。そうだよ、ここで変速でしょ」
買ったあげたのは、普通の女の子は乗らないだろうなぁーって思うサイクリング車だった。夏ぐらいから、二人で街に出かけて自転車を見かけるたびに、こんなのであっちこっちにいきたいなぁって言いいながら直美が指差すのは、決まってサイクリング車だった。
「ちょっと 乗っていい・・・」
「いいけど、走らないでね」
「またぐだけだってば・・」
言い終わらないうちに、もう赤い自転車のサドルの上でうれしそうだった。
「ねぇねぇ どう、かっこいいよね・・」
「直美って、足って届くの・・大丈夫なの・・」
「ほら、なんとか届くよぉー 」
ほんのつま先だったけど、少しサドルが下がりそうだったから調節すれば大丈夫のようだった。
「もぉー 大好きぃー」
「うわぁー」
抱きつかれて、自転車と一緒に直美と倒れそうになっていた。
二人で必死に抱き合って、二人でおかしくって笑っていた。
なんかすごい格好だった。
「はぃ」
その格好でキスまでされていた。
「家にご飯ってほどのじゃないけど用意してあるから 帰ろうかぁ。お腹すいちゃったし・・電車もなくなっちゃうし・・」
さすがに お腹が鳴りそうだった。
「でも、自転車って世田谷線に乗せても平気なの・・・」
「えっ、たぶんだめだなぁ・・自転車持って帰るのは今度にしようかなぁて思うんだけど・・」
「えっー、持って帰りたいんだけど・・だってうれしいんだもん・・だめかなぁ・・ここから、歩いたら時間かかっちゃうかな・・・」
「平気なの・・寒いけど」
「全然寒くないよー もう、こんな自転車と、一緒に帰れるんなら、ぽっかぽかだもん」
ほんとにうれしそうな笑顔だった。
「ここからだと、家まで20分かかっちゃけど、いいの」
「ごめんね わがままで・・でも、ちょっとわがままな直美も好きでしょ・・劉って」
「はぃ 好きですよ」
また、一緒に笑っていた。
「じゃぁ 帰ろうか。頑張れば12時までには何とか着くかな・・」
「うん」
自転車を玄関から外に出して、サドルを少しだけ調節して低くしてあげた。
直美は喜んで赤いサイクリング車にまたがっていた。
「リボンは、はずさないの自転車から・・」
「かわいいから、今日はこのまま・・」
ご機嫌な直美の顔が月夜に浮かんでいた。
直美がご機嫌なら、もっとご機嫌な俺の顔もだった。