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恋の掟は冬の空

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夕方なのか夜なのか


しばらくすると6時の病院食の時間になっていた。
つまらない食事だけど、入院してみると、けっこうそれなりに楽しい食事になっていた。
ま、これが内科病棟の病院食だったらそうはいかないんだろうけど。

食事が終われば、8時までは面会時間で、消灯は9時が決まりだった。
「柏倉さん 食べませんか・・夏樹さんから もらったんだけど・・」
ベッドに横になってTVを見ていると夕子はしらない間に、さっき夏樹が持っていたケーキの箱をひざに抱えて車椅子に乗ってベッドの足元に来ていた。
「それは 夏樹が夕子にでしょ」
「うん そうだけど、一人じゃ食べきれないし・・」
あの箱の大きさだと たぶん 10コは入っていたかもしれなかった。
「病室の子には わけてあげたの・・」
「うんそれでも まだ 余ってるから・・あ、そんな意味じゃないんだけど・・余ったんじゃんなくて、一緒にどうかなーって思っただけですから・・」
少しはにかんで 高校生は笑っていた。
「じゃ お皿を持って ロビーにでも行こうか・・ここより いいでしょ・・」
さすがに 4人部屋だし、ここで二人でケーキはちょっとかな・・って思っていた。考えすぎかもだけど。
ひざに皿とフォークを乗せてロビーに向かう夕子の後ろを車椅子で付いていった。まだ 面会時間だったから、けっこう人が多かった。夜だったし、この時間は彼女とか彼とか 奥さんとか旦那さんとかがほとんどだった。ロビー椅子の横に車椅子を夕子がつけて その横に俺の車椅子を寄せていた。ほんとは 長椅子に座りたかったけど、それも自分ではまだ出来ない夕子に遠慮して、そのままにした。
「どれがいいですか・・」
開けられた箱にはまだケーキが4つも残っていた。
「夕子はどれにすんの・・・」
「私はこれ・・・」
指をさしたのは メロンの小さいのとフルーツがたくさん乗っていた白いケーキだった。たしかに見た目は1番おいしそうだし、綺麗なケーキだった。
「うんじゃ これがいいや 俺」
選んだのは コーヒーゼリーの上に生クリームとフルーツが綺麗に乗ったものだった。おいしそうだった。
お皿に乗せかえて ご馳走になることにした。
「うんじゃ 遠慮なく・・」
「遠慮もなにも 元は柏倉さんのお友達の夏樹さんのお土産だから・・」
言いながら高校生らしく 元気に笑っていた。歳は1個しか違わなかったけど、でもやっぱり高校生だった。
「わー おいしい、ここのケーキって高いもん・・」
言われたけど、そんなことは全然わからなかった。
確かに俺のもおいしかった。

「今日は直美ちゃん 来ないんだね・・わぁー いいなぁ ここのお店のケーキすきなんだよねー」
横に若いナースの寧々さんが知らない間に立っていた。
彼女の直美ともなぜか けっこう仲良しの寧々ナースだった。
ロビーの入り口のそばで食べていたのでナース室から見られていたらしかった。
「えっと あと2個あるんですけど 柏倉さんはもう1個で、寧々さんも1個好きなのをどうぞ・・」
「あ、俺はこれで もう充分だから・・」
甘いものは嫌いじゃないけど、いっぺんに2個はちょっとだった。
「俺のもいいですよ 2個食べていいですよ・・」
「えー ほんと・・私、遠慮しないよー いいのぉ・・・」
「え、どうぞ」
俺のではなかったけど 箱ごと寧々ナースに渡していた。
「ありがとう 夕子ちゃん」
お礼は高校生にだった。当たり前だけど。
「2個食べちゃおうっと」
言いながら、寧々ナースはうれしそうに ナース室に戻っていった。
俺と夕子は また ケーキを食べだしていた。確かに、おいしいケーキだった。
「わたし 直美さんも好きだけど 夏樹さんも好き。どっちにも言っておいてくださいね。私も大学生になったら 二人みたいになりたいなぁ・・」
1個しか歳は違わないのに、それなりにおねーさんに見えるのかなって思っていた。
「自分で言ったほうがいいよ きっと喜ぶから もっといいことあるかもよ・・それって けっこう大事な事だよ」
「はずかしいけど 言ってみます・・」
顔で笑って「がんばってね」て答えていた。

それからは ずっと直美との高校生の時の話を聞かれていた。
あとで 夕子が直美に確かめそうなので怒られない程度に話していた。
困ったところは「直美に聞いたほうがいいよ」って答えたけど、高校生は、けっこう うれしそうに話を聞いていた。
時間はもう8時になりそうだった。面会時間終了時間だった。
「じゃ 帰ろうか 部屋に・・」
「うん。ありがとうございました。今日ちょっと退屈だったんで・・助かっちゃった・・」
舌をだして笑っていた。
あと1時間で消灯時間が迫っていた。
病棟内は少しずつ静かになってきていた。


作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生