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恋の掟は冬の空

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5階外科病棟に夕暮れが


「うんじゃ、帰ろうかなぁ・・駐車場代もけっこう高いのよ、ここ。それってさぁ どうかと思うよぉ」
学校の事とか海の事とかをあいかわらず面白おかしく2時間もしゃべっていた大場が口にしていた。
大場は車で来ていたから毎回駐車場料金を払っていた。
時間はもうすぐ5時になろうとしていた。
「そりゃぁ 東京じゃしょうがないって・・」
「ま、そうだけどさ。近くにいい駐車場ないから、いい値段とるもん。ここ・・1時間¥400だもん」
そんなに 高くないような気もしたけど、2日に1回は来て、いつも最低でも3時間はいたらけっこうな出費なはずだった。
「俺って、直美ちゃんの次に多いでしょ・・お見舞い・・」
「そうだなぁ 時間はお前が1番長いかも・・ヒマだよねぇ 大場って・・なんか 俺以外に目的あるでしょ」
「そんな事はないけど、なんかここ好きなのよ。ドキドキすんだよねー 不思議と・・そいでさ けっこうここのナースって若くて綺麗な人多いんだよねー」
「お前 そんな事、でかい声でい言うなって」
ちょっと油断をするとほんとうにでかい声で無神経な事を言う大場だった。
「そんな でかい声じゃないでしょうが・・ここって 小声が多いから目立つだけだよ」
「病棟なんだから 小声が普通なんだよ」
大場は 「ま、そうね」って顔をしていた。

「夏樹遅いなぁ・・・来るって言ってたんだけどなぁ 今日・・」
「え、そうなの。ここで待ち合わせで デートなわけ?」
大場は4ヶ月前に夏樹に告白して振られたみたいだったけど、なぜか不思議と前より仲良しになってるように見えていた。
「約束はしてないけど、明日はお見舞いいくよって・・昨日電話で言ってたのよ。時間は言わなかったんだけどさ・・」
「じゃあ もう少し待ってれば・・」

「あっ・・」
目の前にいる大場の肩の向こうに指をさしていた。
「えっ? 夏樹?」
すごい早さで首を後ろに大場は回していた。
「あっ また 大場・・よくいるよねぇ ほんとに・・」
言いながら夏樹がこっちに向かってきていた。
「またって のは どうよ・・夏樹もけっこう良く来るじゃん」
俺のお見舞い客では 彼女の直美は別として、この二人が群を抜いてよく遊びに来てくれていた。
「私はさ、直美に頼まれものされたり、この新宿でバイトなんだからわかるけど、大場はほんとに 遊びにきてるだけでしょ・・」
「なんか ひどい言われような・・」
「ま、いいじゃん 喧嘩すんなよ」
いつも 小さい事で言い争ってる二人だった。仲がいいようにも見えるし、ほんとうに喧嘩してるみたいな時もあった。
「だってさ、大場ってよくわかんない時あるんだもん・・」
「ますます ひどい 言われよう・・・」
大場は笑いながら答えていた。
「これ、直美が忘れてたって ごめんねって言ってた」
手に提げていたビニール袋を渡された。中身はスケッチブックだった。
病院生活はけっこう暇で、時間があるときは 適当にスケッチして遊んでいた。
「あっ ありがとう」
「今日はバイトが遅番だから 来れないってさ、今日の朝、私の家に来て お願い! って言うから預かってきた」
別に明日でもよかったんだけど、そういうところが直美らしくて うれしかった。
「明日は 朝からバイトで夕方には来れるってさ・・」
直美は、小田急線の経堂駅のそばの「ケンタッキー」でアルバイトをしていた。土曜日と他に学校の授業が終わってから週に3回、夜の9時ぐらいまで働いていた。
「そんなことは 彼氏なんだから、知ってるってば・・ 劉も・・」
「また、そうゆう余計な事を言うんだから・・大場は・・まったく・・」
また、ちいさく 口喧嘩を始めていた。

「じゃぁ バイト行かなきゃだから・・また 来るね」
あいかわらず 夏樹は新宿のクラブでバイトをしていた。
「もう 帰っちゃうのぉ 今 きたばっかりじゃん・・」
「大場みたいに のほほーんと暮らしてないのよ 私は・・まったく バイトも全然しないくせに・・」
「あー あのね バイトするんだもん俺、さっき決めてきた」
びっくりしていた。春に大場と出会ってから、いままで1回もバイトなんかしてるのを見たことも聞いたこともなかった。
「うそぉ。なにすんのよ」
夏樹と俺はびっくりして、同じ言葉を同時に口にしていた。
「うんとね、小学校の学習塾の先生のお手伝いと試験官らしい・・それ以上は良くわかんないや・・月曜日からね。それ」
「へぇー やっと 働く気になったんだ・・」
夏樹の声は、呆れてるような 感心してるような、微妙な感じだった。
「へー そうなんだぁ・・」
バイトなんか大場がするとは思っていなかったから、けっこ感心していた。

「じゃぁ バイト遅れちゃうから ほんとに帰るね」
「あ、俺送ってくって・・」
大場も椅子から腰を上げていた。
「あ、そうだ 夕子ちゃんにお土産もってきたのに忘れるとこだった・・」
「さっきまで いたんだけど病室に戻ってると思うよ・・・」
高校生は「今日は誰もお見舞いこないや」って言い残して病室に戻っていた。
「じゃぁ ちょっと置いてくるね。大場は駐車場から車出しといてよ。すぐに行くから・・」
「うんじゃ、病院の玄関に車つけておくわ」
やっぱり、けっこう仲いいやって思っていた。
「じゃぁ 俺は病室にもどるわ」
「うん じゃあ またね」
大場は駐車場に、夏樹は夕子の病室に、俺も自分の病室に、それぞれに別れた。
途中までは 夏樹と俺は一緒だった。
「大場とは どうなってんのよ・・」
「うーん。どうなんだろうね・・良くわかんないや・・」
ちょっと遠くを見ながらの夏樹だった。
「けっこう いい感じに見えるんだけどねぇ。嫌いじゃないんでしょ・・」
いつも 不思議に思っていたから おもいきって聞いていた。
「けっこう このごろ、好きだよ」
ちょっと 驚いてた。そんな言い方をするとは思っていなかった。
「じゃぁ 夕子のところに寄って帰るから・・またね・・」
夏樹は少し恥ずかしそうにして小走りに歩いていった。
手には、顔見知りになっていた高校生の夕子にケーキのお土産の箱だった。

俺は自分の病室に戻って、車椅子からベッドに必死で這い上がりながら、夏樹の言葉を思い出していた。
「ふーん・・」って独り言を言いながら。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生