恋の掟は冬の空
デートはあっというまに
「日曜日って、退院って何時からなんだろう、知ってるの・・」
「えっ、聞いてないけど・・何時でもいいんじゃないかなぁ・・」
そんな事はまったく考えていなかった。
「帰りに、誰かに聞いて帰ろうかなぁ、お昼ぐらいなのかなぁ・・退院時間って・・」
「あ、みんな午前中に退院してた・・10時ごろだったと思う」
「そうなんだ・・じゃぁお昼には家に帰れるね。9時半頃に迎えにこようっと・・・」
10時でもいいのにって思って笑っていた。
「叔父さんが退院の日に、車出してくれるって言ってるんだけど、どうしようかなぁ・・」
「うーん、荷物も少しあるしねぇ・・甘えちゃおうかぁ」
「でも、帰る途中で赤堤に寄っていくかぁ・・とか言われそうだけど」
「その時は、そのときで・・お世話にもなってるし、少しくらいならいいわよ寄っていくのは。帰り道だしね。でも、少しだけね」
うんって、うなずいていた。
「晩ご飯は家で食べようね。鍋でもしますかぁ」
「あー いいなぁー そんな食べ物食べてないからなぁ、ずっと」
「じゃぁ 寄せ鍋あたりで いいかなぁ」
今 お腹が鳴りそうだった。
「夏樹とか大場君も呼んでにぎやかにやろうかぁ・・」
「うーん。それって大変でしょ でも・・」
「大丈夫よ、夏樹料理得意だし・・日曜ならバイトって休みの日だよね。声かけようっと。他に呼びたい人はいる?」
「いいって、それ以上は大変になっちゃうから・・お見舞いに来てくれた人には後で、お礼の挨拶はしとくから・・」
お見舞いに来てくれていたいろんな人の顔が浮かんでいた。隼人さんとか麗華さんとか、バイト先の先輩とか、みんないい人ばっかりだった。新宿のバイト先には迷惑もかけたのに、いつでも足が直ったらもどっておいでって言われていた。ありがたかった。
「さ、戻ろうか、二人でここで風邪引いちゃったら笑えないや」
寒そうにしていた直美に笑ってしゃべっていた。
「うん、あ、もうこんな時間かぁ 早いなぁ・・3時にここを出ないとギリギリになっちゃうから。中にもどろうっか。楽しかったぁー やっぱり中より寒いけどここのほうがデートらしくっていいね・・」
言いながらの笑顔の直美と一緒に立ち上がっていた。
広い1階のの待合室を抜けていつものエレベーターを待っていると山崎先生と一緒になっていた。
「お、今日は彼女来てたんだぁ・・そっかぁ。あ、約束どおりに日曜日に退院だからね。おめでとう。聞いてるかな、もう」
「はぃ ありがとうございました。おかげでお正月は一緒にできますから」
「そうだねー よかったねー 俺なんかは正月も当直だからね。でもね少しは暇になるんだよね。不思議とね・・お、来たよ、上でしょ」
ちょうど上りのエレベーターがやってきたところだった。
エレベーターは途中でどの階にも止まらずに5階まであっというまだった。
「じゃぁ、病室まわるから、またね柏倉君 お大事に」
先生は足早に俺と直美に頭を軽く下げて左の廊下に歩いていった。
「先生ね、家に帰れないらしいよ。あの年齢ぐらいが大学病院では1番忙しいらしいから・・」
「そうなんだぁ。なんか良く見かけるもん 私も」
たしかに、いつ家に帰ってるのか、さっぱりわからなかった。
「おかえりー 見せてよー 柏倉君・・・ちょうど良かったぁ・・」
寧々ナースが大きな声を出しながら正面からだった。
「こんにちわ 寧々さんお邪魔してます」
直美が頭をちょこんっと下げていた。
「こっちこそ この前はお弁当ご馳走さまでした。こんなところで良ければいつでもどうぞー 」
「日勤じゃないですよね。準夜勤ですよね。早いんですね」
今日は初めて見かけた記憶だった。
「そうだよー で、さっき佐伯主任に柏倉君が大きな靴下を履いてたって聞いたから・・これかぁー かわいいねー」
足を見られていた。
「じょうずだねー 直美ちゃんが編んだんだってね なんでもできるんだねー 今度私のも編んでよ、かわいいのを・・あ、こんなビッグサイズじゃないのだからね・・ちっちゃなかわいい足ですから」
「いいですよー でも、劉のをもう1足編んでからですよ。1つじゃ洗えないから、そっちが先ですから」
「いつでもいいわよ。忙しそうだもん 直美ちゃんも。へーよく出来てるんだねー」
言いながらかがんで俺の足を見ながらだった。
「ねー ちょっとぉ、見に来ませんかかー かわいいからー 柏倉君の足ー」
寧々ナースは振り返ってナース室にけっこうな声だった。
「見せてくださいねー」
あっという間に3人のナースが集まっていた。
「かわいいねー 」
そんな声が聞こえていた。
直美は、恥ずかしそうに、でも、うれしそうに笑顔を見せていた。
足の周りに人だらけになっていた。
「あのう うれしいんですけど病室に戻ってもいいですかぁ・・」
ちょっと 恥ずかしかったので逃げることにした。
「はぃはぃ。お邪魔でしたねー ごめんなさいね」
寧々ナースが笑いながら直美と俺を見ながらだった。
「じゃぁ 戻りまーす」
少し照れくさかったから大げさに口にしていた。二人で病室に急ぎ足だった。
ベッドに戻って話をしているとあっと言うまに3時になっていた。
「編んできてよかったぁ・・あんなにみんなで 見られるとはだったけど・・」
部屋に戻ってもまだその靴下を履いている足を見ながら直美に言われていた。
「劉、外に空気を吸いに行くときはきちんと履いていってね」
子供みたいにいわれていた。
「じゃぁ、遅れちゃうといけないから今日はもう帰るね、ごめんねー あさっては、バイトお休みだからゆっくり出来るからね。まってってね」
「ありがとう うれしいよ これ」
言い終わらないうちに短くキスをされていた。
「おやすみね 劉」
「うん おやすみ 直美」
彼女の頭をなでながらだった。
靴下ははっきり言って、恥ずかしかったけど、すんげーかっこいいかもだった。
誰かに聞かれたら 今日も「ぞっこんなんです」って言いそうな自分だった。