恋の掟は冬の空
12月23日午前中は浩君と
「右足って、疲れないかな・・ けっこう疲れると思うんだけがんばってね。それと左の指先はどうかなぁ・・しびれたりはしてないかな・・」
ギプスの先の左足の指をいじられながらだった。
「はぃ 違和感はないですけど・・きちんと思ったようには指動くし大丈夫です。 あのー、このギブスとれたら、やっぱり左足って筋肉落ちてるんですよね・・」
「うん、そうだね。けっこう、自分で見て、細くなっててビックリかもよ。年が明けたらギブスはずして、両足で歩く練習しながらゆっくりね。腱も筋肉も伸ばさないとね、そこからがきちんとしたリハビリだね。あ、あんまり関係ないかもしれないけど、そのギブスの下は肌が真っ白だね」
優しくリハビリ室の先生に言われていた。
「さ、では今日はもういいですよ」
10時から30分ほど、歩く練習というよりは、左足の指先の感覚の確認と、松葉杖でつく方の右足のケアだった。
「はぃ ありがとうございました」
「がんばってね」
言われながらリハビリ室を後にしていた。
ここに来ると、ギブス片足にはめてる俺なんかはものすごく軽いほうで、もっと必死にリハビリに励んでいる人たちばかりだった。頭がいつも下がるおもいだった。
1度1階に下りて外の空気を吸ってから5階病棟に戻ることにした。
さすがに午前中の1階待合室は、あふれんばかりの人だった。ここで順番を待っているだけで元気な人でさえも具合がわるくなるだろうにって感じだった。
「あ、柏倉くん おかえり」
5階でエレベーターの扉が開くと佐伯主任だった。
「さっき、直美ちゃんから伝言で・・えーっとなんだっけ・・あ、バイトが遅番になっちゃったから2時に来るって・・伝えといてって電話があった」
「すいません。いそがしいのに、くだらない事で・・」
「いいのよー 直美ちゃんはひいきにしてるから 私」
笑顔だったけど、早足で廊下をかけていくようだった。
「柏倉さーん リハビリ終わりですかー」
少し離れたところに車椅子の 浩くんだった。
「なにやってるの・・そんなのめずらしく乗っちゃって・・」
ベッド以外の彼は、久々なような気がしていた。
「肋骨の写真取ってきたんですけど、久々だから 怒られるまではこれに乗っていようかと・・お茶でもしませんか、そこで」
「いいけど、片手でよく動くね、それ・・」
感心していた。
「押してやるわ」
「押せるんですか・・それで・・」
言われながら 片手に両方の杖を抱えて右手で車椅子の後ろを押していた。
寄りかかってるだけみたいが近かったけど。
さすがに車椅子を松葉杖抱えた人間が押しているとみんな道を開けてくれて、ロビーの中もスムーズに動く事ができた。
「あ、お茶に誘ってて、お金もってきてないや、俺・・」
「おれ、持ってるからいいよ・・」
リハビリの帰りに地下の売店でもいこうかなって考えてたから千円札を1枚スエットのパンツに入れてきていた。
「すいません、後で返しますから・・」
「いいわー これぐらいでちゃんと金取ったら、後で何を言われるかわかんないから・・おごるから」
「そんなー 言わないっすよ」
「で、コーヒーでいいのか」
「はぃ」
両方の脇に杖を挟んで、自販機に向かっていた。
「はぃ どうぞ」
「すいません。えっとー あのー 開けてくれないっすか・・片手これなんで・・」
吊ってる腕を上に上げながら笑って俺を見ながらだった。
「なんかさー 彼女とかにやってもらえよー まったく・・」
文句を言いながら椅子に座って開けてあげていた。
「私立の男子校なんで、出会いないっすよ」
「そうなんだー そういえば男しかお見舞いこないよねー 浩君って・・」
それもなんか体のでかいのばっかりだった。
「なんか運動部なわけ お見舞いの同級生って、でかくないみんな体・・」
「ラグビー部なんですよ。もう引退しちゃったけど・・正月の花園は夢の夢でした・・」
なるほど 浩君も体がでかいわけだった。
たぶんよくわからないけどスクラムなんかを組む位置の感じの体つきだった。
「でも、それは事故なんでしょ・・」
「バイクこけちゃって・・・単独で・・すんげー 転がっちゃいました」
恥ずかしそうな顔で答えていた。
「高校3年生なんでしょ 浩君って 進路は決まってるの・・」
「えっとですねー こうみえてもですねー 運動神経いいんですよ。推薦で日体大のラグビー部に・・推薦の試験の後でよかったですよ、事故ったのが、これで取り消されるかと思って学校に確認しちゃいました。大丈夫でした。よかったですよー」
「あれー 昨日来てた夕子の友達一人も日体大に推薦決まったって言ってたぞ」
二人のうち背の大きい子のほうだった。
「うそー 昨日帰りに連れてこないんだもんなー 柏倉さん・・」
「俺の知り合いじゃないから 無理でしょ・・」
「あー でもなんか 背がすごくでかくなかったっすか・・俺よりでかそうだったけど・・」
「バスケット部だって・・」
そっかぁ・・って顔をしてうなづいていた。
「あー そんな事より、夕子ちゃん、こないかなぁ・・」
廊下のほうを見ながらだった。
「午前中は勉強だから、来ないよ、きっと・・受験だから」
「そうなんだぁー 」
けっこう がっかりの顔だった。
「あー 俺を呼び止めれば、もしかしてって、考えてだろ・・それで俺を待ってたんじゃないだろうなぁ、あんな所で・・」
「そりゃぁ 少しはですね」
笑いながら言われていた。
「午後になったら、休憩で、出てくると思うけどなぁ、夕子も」
「あ、全然だめ、俺ってたぶん午後からはベッドの上の悲しい人ですから・・」
首を横に振りながらだった。
「ま、あきらめて寝てなさい」
「なんか、 やな感じっすよ」
「あー そんな事言うと後でしらないぞー」
「うわぁ 冗談ですから、かるーく流してください、すいません」
でかい体を小さくして頭を下げていた。
「あのー 聞きたいんですけど、どうやったら、女の子と話できるんですか・・柏倉さん、なんか誰とでも仲良くしてるでしょ・・ナースとかも・・いいなぁ・・」
「えっ、俺・・そうかぁあ。 話かけてるだけだろ」
「いやー なんか平気そうだもん 女の人と話すの・・」
「あー えっとね それはね、意識してないからかも・・興味ないっていったら変な言い方だけど、それじゃないかなぁ」
ちょっと乱暴な説明だったけど、たぶんそれが自分では1番うまい説明の気がしていた。
「興味ないんだぁ・・・それって、良く来る彼女にぞっこんだからですかぁー」
なんか でかい声で言われていた。
「うーん ぞっこんなんで・・」
笑いながら答えてやった。
「ひぇー やってらんねーや」
ますます でかい声だった。
それからお昼を食べに病室にもどるまで、ずーっと浩君の恋のお悩み相談会になっていた。相談っていっても、彼女がいないんだから、具体的な相談なんて一つもあるわけがなかった。