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恋の掟は冬の空

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5階外科病棟


5階外科病棟は、今日も冬の木漏れ日がさしていた。
都会の真ん中だけど、世間とは少し離れた時間が動いているようだった。
車椅子を窓側に動かして、窓越しの太陽を浴びていた。

「どう、まだ、少し痛むかなぁ・・」
振り返ると担当医の「山崎先生」がカルテみたいなのをたくさん抱えて立っていた。
「少し痛むってのは どのくらいなのかが・・ま、でも、全然平気ってわけじゃないです。それより、かゆくて・・どうにもです」
左足のひざから下にはめられたギブスはもう1ヶ月以上も友達になっていた。

11月のバイト帰りにマンションの近くの静かな交差点で、車どうしが衝突して、そのぶつかった1台がそばを歩いていた俺に体当たりしてきて、結果がこの足だった。後ろに飛ばされたところが垣根で、運よく大きなケガはそれだけだった。でも、顔は植木で傷だらけだったけど・・。
そのまま 救急車で運ばれたのがこの「東京医大病院」だった。

「明日から松葉杖の練習しようかなぁ・・って思うんだけど大丈夫かな・・リハビリセンターで少しずつね。指示だしておくから、もう飽きただろ・・車椅子も・・」
山崎先生は俺のカルテらしいものを見ながら話していた。
まだ若い先生でたぶん30歳の少し前ぐらいかなって思っていた。
「松葉杖ついたら これもう乗らなくていいんですか」
さすがに、もう車椅子の生活は飽きていた。
「うーん 最初は車椅子と松葉杖の併用ね。思ってるより大変だぞ、松葉杖って・・」
簡単そうに思えたけど黙っていた。
「じゃぁ 指示だしとくから 詳しい事はナースから聞いてね。俺ちょっと寝るから・・昨日から急患ばっかでほとんど寝てないんだよね・・」
ほんとうに 眠そうな顔で先生は背を俺に向けて廊下に出ていった。
たしかに山崎先生はいつも病院にいて、いつ家に帰ってるんだろうって思っていた。

車椅子を動かしてこの階のロビーに行く事にした。ちょっと喉がかわいていたのでお茶を飲みたかった。、
ここは面会の人とかがやってきて、部屋以外で話ができるところになっていた。
2時からの面会時間が始まっていたから 少しにぎやかになってきていた。にぎやかっていっても、病院だったからそれなりだったけど。
車椅子から 長い椅子になんとか座りなおして自動販売機からでてきた日本茶を飲んでいた。
退屈だけど、けっこうもう日常になっていた午後の時間だった。

「あっ いたいた。柏倉さん」
高校生の「片桐夕子」だった。この子も車にはねられて足の大腿骨を複雑骨折して、やっと車椅子になった高校生3年生だった。俺より長く入院していた。髪の毛の長いちょっとかわいい子で病棟内でもけっこう目立っていた。
「いたって・・言われても・・ここしか行くところないんだけど・・あとは地下の売店か・・そんなもんだろ・・」
「ま、そうですけど。柏倉さんも、私も今日はお見舞いは無しですかねぇ・・・」
「まだ、こんな時間だからじゃないの・・夕子の学校はまだ授業中だぞ・・終わったら誰か来るんじゃないかぁ・・」
「うーん。でも、この頃さすがに少なくなったなぁ・・」
確かに1ヶ月以上も入院してれば 最初の頃に比べりゃお見舞いが少なくなるのはしょうがなかった。彼女はもっと長かったからなおさらだった。
「柏倉さんは えっと、直美さん今日は来ないんですか・・」
直美とも顔見知りになっていた。
「うーん。今日って金曜日だから、バイトある日だから たぶん来ないよ」
「そっかぁ 英語教わりたかったんだけど・・直美さんに教えてもらうとわかりやすいんだよね」
直美は英文科に通っていたし、夕子は大学受験をひかえていた。偶然にも第一志望が直美の大学だった。
「試験までには退院できるかなぁ・・」
「大丈夫だろ、松葉杖ついて試験会場いけるだろ、きっと・・」
今日は12月の18日だったからたぶん間に合うだろうって思っていた。
「ちゃんと 勉強してるの・・」
「うん だって暇なんだもん。けっこう受験勉強にはここの生活いいかも・・消灯時間がちょっと早いけど・・」
高校3年生は笑っていた。

「あー いたぁー」
病棟内に響く声だった。やっぱり「大場」だった。
「声 でかいってば・・」
「あ、ごめんごめん。おっ 高校生も一緒か・・」
大場はなぜか お見舞いがすきなのか、病院がすきなのかそれともナースに好きな子でもいるのか 暇がありゃぁ よく遊びに来ていた。夕子とももちろん顔見知りだった。
「こんにちわ 大場さん」
「お、名前覚えたのねぇ いいねぇ」
大場はすごく うれしそうだった。
「あのう すいません 面会名簿に名前書いてもらわないと困りますから・・」
後ろから追いかけてきたらしいナースに言われていた。
若いナースの「杉田 寧々」さんだった。みんなには「寧々」さんって呼ばれていた20歳のナースだった。
「えぇ だってさ、1階で書いてまた ここで 書くの面倒なんだもん。普通は階でなんか書かないぞぉ・・」
「決まりなんで お願いします」
「俺の顔ってもう わかるくせに・・名前も知ってるでしょ・・」
差し出された ファイルに大場は自分の名前と俺の病棟部屋の番号をめんどうくさそうに、でもうれしそうに書いていた。
「知ってますけど 次からはちゃんと書いてくださいね お願いします」
少しだけ 寧々ナースは怒っていたけど、大場は喜んでいた。

今日も静かで にぎやかな 午後の外科病棟が始まっていた。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生