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恋の掟は冬の空

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9時まで もう少し


「おかえりなさい。早かったねぇ、もう少しゆっくり戻ってくるのかと思ってた。
5階に戻って、ナース室の前で夕子に少しからかわれていた。
「ケチよねー ね、夕子ちゃん・・せっかく待ってたのにねー・・・」
ナース室から顔をだして工藤さんにも言われていた。
「うんとねー ヒマなんですか・・工藤さん・・」
「それがさ、めずらしく 急患が全然こないのよ・・すごく今日はいい日かも・・土曜日なのに・・このままいくと引継ぎしたら定時で帰れるかも・・」
たしかに、なんとなく静かな感じのナース室と病棟だった。
「私たちに気がつかなかったら、柏倉くん、今日も、してたでしょ・・キス・・」
工藤さんは まだナース室から体を乗り出していた。
「あのうですね、そんな事ばっかり言ってると、これから 救急車がいっぱい来て、入院患者がものすごく来て、どうにもこうにもで、残業になりますよ・・きっと。しらないですよー」
「うわぁー 言わないでよぉー ここまで静かだったのに、そんな事になったらガッカリよぉー そんなパターンが1番嫌いなんだから」
ちょっと 現実に戻ったみたいで、乗り出していた体を部屋の中に戻していた。
「夕子もさー 遊んでないで、勉強つづけろよ。直美が下で、まだ遊んでたら劉がきちんと注意してねって言ってたぞ」
「うわー そんなに 怒らなくても・・」
少し強い口調だったので、すこし小さな声の夕子だった。
「柏倉さんは、もう部屋に戻っちゃいますか・・」
「カップ置きっぱなしなんだよね。それ取りにいかないと・・それに洗わないと・・」
ロビーのテーブルの上にコーヒーを飲んだカップを置いたままにしていた。
「私も手伝いますね。杖をついてだと無理っぽいですよ」
言われて気がついたけど、確かにそうみたいだった。
昨日まで車椅子だったから物を持つのもひざの上に乗せればなんとかなったけど、この格好ではカップを3個も一緒に持つなんて無理なようだった。
「あ、そうみたい。じゃぁ 手伝ってよ・・」
二人でさっき座っていた席に向かっていった。
カップはそのままにテーブルの上だった。

「この上に全部乗せちゃってください」
車椅子のひざの上にトレーを置いた夕子に言われていた。
「ありがと。じゃ、お願いね・・」
カップをバランス良くトレーの中心に乗せながらだった。
給湯室は、ロビーの横だった。
先に夕子の車椅子で、後に松葉杖の俺が続いていた。
給湯室には時間も時間だったから誰もいなかった。
「柏倉さん、お湯出してください」
蛇口は女の子が車椅子で触るには、少し高い位置にあった。
「あー これでいい・・」
「はぃ、あとは私洗っちゃいますから・・」
「ありがとうね」
夕子は几帳面に綺麗にカップを洗っていた。性格が出ているようだった。
「あのう 話の続きなんですけど・・やっぱり 柏倉さんが直美さんに告白したんですか・・」
なんの続きだよって思ってちょっと笑っていた。
「いきなりだなぁー・・」
「えー さっきも聞きましたよ。一目ぼれですかって・・」
たしかに1時間前ぐらいにちょこっと言われていた。
「うーん、とねー 信じなくてもいいけどね、直美は中学生の時に初めて俺みかけて・・からで、俺は高校生の入学式で初めて直美を見かけて・・から・・だね。後から知ったんだけどね、それは。だからどっちも一目ぼれなのかなぁ・・中学は別だったんだよね」
「えー そんなことって あるんだぁ・・いいなぁ・・」
綺麗にカップの底まで泡だらけだった。
「で、告白したのは柏倉さんですか・・」
「うーん。とね。高校2年生になってクラス一緒になってね、良く話すようになったから、あ、それまでは ちょっとしか話した事なかったんだよね、1年生のときはね。それで朝早くに、学校に行くとさ、直美はバスの時間の関係でけっこう早くに教室に来てたのよ。それに気づいてから俺も早くに学校行って、ずっと喋ってたんだよねー」
「うん」
「でもさ、直美も俺のこと好きだなんて知らなかったし、夏すぎるまでは ずーっとただの仲良しだっただけ」
「ふーん」
カップをすすぎながら顔はこっちに夕子は向けていた。
「で、やっぱり 柏倉さんが言ったんですか・・」
「それがね、また、信じなくてもいいんだけどね、直美からなのかなぁ・・たぶん人から見たら付き合ってるようには、もう見えたんだろうけど・・でも、口に出して言ったのは直美だったな・・」
「へー けっこうビックリです。それ」
夕子はもう、すすぎも終わって綺麗になったコーヒーカップをトレイの上に並べていた。
「なんて言ったんですか 直美さん・・」
「うーん それはなぁー うーん。直美から聞きなよ・・」
「あ、絶対内緒にしますから、大丈夫ですから、言いませんから直美さんには・・」
なんか真剣な顔を高校生はしていた。
「うーん。ま、いいかぁ・・でも内緒ね、絶対ね」
「はぃ」
「正確じゃないけどね・・たぶん、こうかな・・  劉って私のことずーっと好きでしょ?で、なので、今から私が劉の彼女になります!って言われた」
そんな感じだった。言われてびっくりした記憶だった。
「へー いいなぁぁ なんか格好いいなぁぁ。そんな勇気ないなぁ 私は・・」
目線をはずしてつぶやいていた。
「さ、帰ろうか・・」
ちょっと話しすぎたかなーって思っていた。
「はぃ。いいなぁ・・でも・・」
まだ、独り言のようだった。

給湯室をでて、また車椅子の後ろを松葉杖で歩いていた。綺麗になったカップはまた夕子のひざに乗せてもらっていた。
「夕子は、好きな人いないの・・・」
後ろから、なんとなく聞いてみた。夕子は女子高だったからお見舞いには来る人の中に男の子はあまり見かけたことがなかった。
「好きな人はいますよー やだなーもうー 片思いみたいだけど・・でも、きっと誰か好きな女の人いるんだろうなー」
前を向いて高校生は答えていた。
「ふーん。でも、俺もずーっと、そう思ってたけど・・・」
「それって 柏倉さんが、どんかんだっただけみたいだけど・・」
「いやー だってさ、直美って人気あったから・・それはないと思ってたんだけどなぁ・・」
「やっぱり、すごーく どんかんだったんだと思うけど・・柏倉さんが・・」
すごい言われようだった。
「夕子も、はっきり言ってみたら・・好きな人に。向こうも好きなのかもよ・・夕子を」
「あのですね。世の中はそんなに うまくいく人ばっかじゃないんですから・・」
振り返って言われていた。
どうやらほんとに、好きな人がいるようだった。
「まったく もう・・」
高校生に呆れられていた。
言いながら夕子は ベッドの横のテーブルの上にカップをきれいに並べていた。
「では おやすみなさい。柏倉さん」
「うん。おやすみ。内緒だからね さっき話したのは・・」
「はぃ、約束しましたから・・・えっとでも、明日、直美さんにあったら、柏倉さんって どんかんだったんですね!ってのは言っちゃいます」
言いながら 手馴れた車椅子は、勢い良く背中を向けていた。後ろ手に手を振りながら 笑いながらだった。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生