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恋の掟は冬の空

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気がついたら


「あ、ごめんさい。もうこんな時間です・・直美さん」
車椅子に座って月を一緒に眺めていた夕子だった。
「あ、ほんとだねぇ・・早いね 楽しいと・・」
車椅子の夕子に上からだったけど笑顔で直美が答えていた。
「すいませんでした。時間とらせちゃって・・」
「ううん いいのよ 楽しかった。いつでも 遠慮しないで聞いてね。もう時間ないでしょ・・試験まで1ヶ月とちょっとしかないわよー 頑張らなきゃね。 ねっ 劉」
「うん、うん」
最後は俺のほうを見てたから 俺も一緒に相槌をうっていた。
「では、部屋に戻ります。ありがとうございました。おやすみなさい」
「うん。おやすみー またね」
車椅子から 頭をちょこんと下げた夕子を二人で見送っていた。

「どう・・受かりそう・・夕子って・・」
「うーん。たぶん 合格ラインはいけてると思うけど、最後は運みたいのあるじゃない・・もう そこだけね」
確かに大学受験って、1発勝負だったから、そうだなーって思っていた。
「俺も、試験できたと思ったのに不合格の大学あったからなぁ・・」
「そこがねー 難しいところだよねー」
確かに、直美でも一つ、俺は3大学もこの春、不合格だった。でも、お互いに希望の大学だけは不思議と合格していた。
「でもさ 夕子ちゃんて、そのまま大学は入れちゃうよね。大学あるもんね。あの学校・・何でなんだろう」
「えっとね、俺も疑問だったから、この前聞いてみた」
確かに夕子の通ってる高校は付属でそのままエスカレター式で大学に進めるはずだった。
「高校生からなんだって 今の高校には・・でね、本当は直美の大学の付属の高校に行きたかったらしいんだけど、それは落ちちゃったらしいんだよね・・だから、どうしても行きたいらしいよ・・それに付属の大学には英文科ないらしい」
「へー そうなんだぁ。じゃぁ もっと教えてあげようかなぁ・・合格させてあげたいなぁー  劉もなんか教えてあげなさいよー 時間あるんだから・・」
「えっと、そう 思ったんだけどね、なんか俺より成績いいみたいだから・・邪魔なだけだと思う・・」
一度だけ、現代文の勉強を少し教えてあげた時に思ったことだった。
「もー あ、劉さ、日本史は、すごく得意じゃない・・」
「えっと、世界史だそうです。受験は・・」
笑いを抑えてるようだったけど、しっかりと笑われていた。
「受かるといいねぇ 夕子ちゃん・・」
ゆっくりと 静かな声の直美だった。
「うん そうだねー。受かったら直美の一つ後輩かぁ・・」
俺もなんだか ゆっくりだった。
「そうなると いいなぁ・・いい子だもんね」
「うん、そうだね」

「あ、8時になっちゃった。怒られちゃうね・・」
「ほんとだ、気をつけて帰ってね」
腕時計を自分でも確認すると8時2分だった。
「明日も面会って1時からだよね・・ぴったりに来るからお腹すいてても待っててね。お弁当作ってくるから・・」
「うん。大丈夫 待ってるから・・」
「ねぇ リクエストあるかな・・あったら作ってきてあげるから・・」
「うーん。おいしいのを・・」
「あー いつも、なんでも、おいしいんじゃないのー」
言いながら、また頭を指でこずかれていた。
「それじゃ、また 明日ね・・」
ロビーには もう面会の人は直美が最後みたいだったけど、消灯時間まではここは自由に使えたから、まだ、顔見知りも何人か残っていた。
「うん。じゃぁ エレベーターまで送るね・・」
「うん、ありがとう」
杖を使って立ち上がろうとすると直美がきちんと手を添えてくれていた。よっぽど、さっき びっくりしたようだった。
「大丈夫なのぉー もー ふざけて転んだりしないでよー。退院延びちゃったら ほんとに怒るからねー」
けっこう、真剣な顔で言われていた。
「エレベーターのところまででいいからね」
言いながら、二人で、ロビーを出てナース室のところまで来ていた。
まだ、直美の手は俺の背中に触れていた。

「あら、帰っちゃうですかぁ・・」
もう一人の主任の工藤さんだった。外科婦長は1人だったけど 主任は佐伯さんと工藤さんで、どうも工藤さんのほうが後輩のようだった。
今夜の準夜勤の責任者は工藤さんらしかった。
「はぃ 時間過ぎちゃいましたから・・」
直美も工藤さんとはもう顔見知りになっていた。
「あれ、まだいたんだ・・」
夕子がナース室の前に車椅子を止めて遊んでいたようだった。
「は、はぃ。ちょっと、工藤さんと・・」
「早く帰って勉強しなさいよー」
直美は笑いながらだったけど、注意をしていた。
「は、はぃ。今日はありがとうございました。直美さん」
「明日もわからないところは教えてあげるわよ、夕子ちゃん。 では お邪魔しましたぁー おやすみなさい」
直美と一緒に頭をさげて、斜め前のエレベーターのところに歩き出していた。

「ねぇ あれ・・」
小さい声で耳元だった。
直美の視線の先は俺の背中の後ろらしかった。
「なにぃ・・」
ほんとに 小さな声で答えた。
「えっとね 工藤主任と他にナース3人と・・・夕子ちゃんも・・見てみて・・・」
ゆっくり振り向くと、全員がこっちを見ていた、工藤主任も他の3人のナースは、ナース室から体を乗り出してだった。
全員で、直美が帰るところを待っていたかのようだった。
「あー 工藤さーん 佐伯さんから なんか聞いたでしょー あー全員かぁー まったくもうー」
「聞いてない、聞いてない」
あわてた工藤さんだった。
工藤さんもナース3人も首を横に振っていた。夕子もだった。

ちょうど、下りのエレベーターが到着だった。
「じゃぁ 下まで送ってきまーす。失礼しまーす」
びっくりしていた直美をエレベーターに押し込んでいた。
「あーぁ・・」
ボタンを押して閉まりかけのドアの間から工藤主任と夕子の声が聞こえてきた。
二人っきりのエレベーターの中で顔を見合って笑っていた。
もちろん それから昨日より長いキスをしていた。
「おやすみ 劉 ありがと」
「おやすみ 直美 ありがとう」
最後にも、もちろん短くキスをした。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生