日出づる国
ヨシが率いるヌ族、ヨシの婿ムオが育ったイ族、他いくつかの一族はそれぞれに散らばり、定住するにふさわしい土地を求めて南下していった。
ヌ族には3匹のオオカミがいた。それらは1・2年すると繁殖可能となり、この地に元からいた小型のオオカミと交尾を繰り返すうちに数も増え、従順な性格を有していった。オオカミと区別するために、それらをイヌと呼んだ。
ヨシの5人の子供のうち、息子のムキと娘のヨシカ、ヨンは犬を訓練し、それらの持つ能力を伸ばしていった。
ヒュッ
ウヮンウヮンウヮン
「ようし、いいぞ」
イヌがくわえて来たウサギをムキは受け取った。葦で作った矢は横腹から心臓を射抜いていた。
「ムキ、ワレにも撃たせ」
「勢いよく飛ばさないと、ウサギを撃てないぞ」
「あそこにいるやつ、ここからなら大丈夫だ。イヌよ、獲物をとって来いよ」
ヨシカは弓の弦を思いっきり引き狙いを定め、そして放った。
ヒューン
矢はウサギに当たったが、仕留めるまでには至らなかった。よろよろと逃げ出したウサギをイヌが追いかけ、喉元を咬みきって、ヨシカの元に届けた。
「ほら、かわいそうなことをした。一発で仕留めないと」
「うん、ごめんね」
と、そのウサギを高々と差し上げた。
「この命、ワレが受け止めようぞ」
しばらく瞑目したのち、ヨシカはムキに語りかけた。
「ヨシが、イ族が持ってきた石と毛皮を交換していた。ムオが言うには、その黒い石から切れ味の素晴らしい刃が作れるらしい。鏃(やじり)を作ってケヤキと結びつけたら、クマを倒すのがたやすくなるって」
「そうか、今までみたいにそばに近寄らずに倒せるなんて、夢のようだな」
「だからワレもクマ狩りに行きたい」
「だめだ」
「イヌたちを連れてくんだろ、ワレのイヌも・・・」
「あぁ、足が速くないとな、手負いのクマはすごい勢いで襲って来るんだ」
「いつ出かける」
「雪が降り出してからだな」