日出づる国
ウワン ウワン
イヌが何かを見つけたらしい。
クマの足跡。
しかしその上には、何日も前に降った雪が積もっていた。
イヌたちは四散していった。
男たちは貝殻に入った香油を少し指でとり、首筋にこすりつけた。ウサギの油脂とドングリの脂肪から作った香油はイヌの嗅覚に捉えられて、自分の存在を知らせる。一方、クマも嗅覚に優れているが、むしろ人のにおいを消す効果がある。
そうして、ヒトもイヌが散った方向へ四散した。
ムオが追いかけたイヌは吠えるのをやめ、ひたすら走る。どうやらクマのにおいをとらえたらしい。
大きく突き出た岩のそばに不自然に盛り上がった雪があった。
ムオは周辺を調べて回った後、イヌに仲間を集める合図を送った。
冬眠中に出産し子育てをするクマを、彼らは殺さない。周辺を調べて排泄状況を確認したのだ。ひとり者のクマは冬眠に入るとほとんど目覚めることはない。
仲間が集まってきた。
ふたりは不自然に盛り上がった雪を崩していった。
ひとりは持参した木にウサギの脂を付け、火を点ける仕事をしていた。
他の者たちは、それらの作業を見守っていた。
イヌたちは、雪の上に腹ばいになって気持ち良さそうにしている。
穴の入口が現れた。穴は斜めに走り火でかざすと、奥の方でうずくまって眠るクマを認めた。気付かれて鉤爪で一撃を喰らうと、重傷を負う。
火を消し、煙を穴の中に送った。
4人の男たちは弓矢を構えて待ち受けた。
イヌたちも低姿勢をとっていつでも飛びかかれる体勢にある。
煙を送っていた3人の男たちは、入り口から遠くに離れてその様子を見守った。
あたふたと穴から顔を突き出したクマが全身を現し、そこにヒトとイヌがいるのを知って咆えた。
そして、ひとりの男目がけて突進してきた。
ムキが放った矢はそれた。
イヌたちがクマとヒトの間にすかさず入り、吠え、飛びかかる。
クマは太い腕で、1匹のイヌをなぎ払った。
キュィン
固く締まった雪が赤く染まった。
男たちは体勢を整え、再度弓を構えた。
「来い!」
ムキがイヌを呼び戻すと同時に矢が放たれた。
なぎ払おうとしたクマの左腕と胸と足の付け根に矢が立った。
ガオオオーッ と叫ぶと同時にドターッと倒れた。
ムオが頭側から走り寄り、石刀で心の臓を突いた。
向けられていた鉤爪は地に落ちた。
「イヌ、やられてしまったな、傷の具合はどうだ」
3匹のイヌたちがかわるがわる傷口を舐めていた。ムキは傷の状態をあらためた。
「横腹に傷を負ったが、歩けそうだ。ヨンのイヌだ。なんとしても連れて帰る」
雪の中に保存していた数体のキツネやウサギと、クマを担いで帰ることにした。
イヌの傷口は、一晩中舐められているうちに痛みがとれたらしく、くっつき始めていた。