妖怪の杜
「東狐(とうこ)いい加減起きな、休みだからっていつまで寝てんのぉ」
私、白面涼風(はくめん すずか)。
金髪ピアスで、しかもジェード色の眼の10歳のマセがきの母親。
部屋に入るとベッドの上で愛くるしい寝顔の息子がこのクソ暑い中飼い猫の孟知(めんち)と同じ格好で寝ている。
ため息が出る…
ふと、勉強机に目をやるとあの勾玉のピアス…
これだけでも隠しちゃろか。フフッ。
「何してんの母ちゃん。それは、父ちゃんから預かった大切なピアスなんだから勝手に触らないで」
いつの間に起きやがった。
「チッ、はいはい悪うござんした。二度と触りません」
「ん?今、チッって言った、ねえ、チッって」
「言ってません。ハァ、我が子の早過ぎる反抗期…私はどうしたらいいの、あなた~母子家庭は辛い…」
芝居がかった台詞を言ってみた。
「何、下手な芝居してんのさ…うち、父ちゃん居るし母子家庭じゃないでしょ」
やっぱマセがき…この性格は絶対京吾の血筋。
私じゃないわよね、きっと。
「いつ帰るかわかんない京吾をあてに出来ますかっての。あんたみたいな子を育てるのは大変なんだからね。少しは理解してよ」
なんて言ったところで聞くような子でもないか。
「ふ~ん、解った」
「えっ…」
「で、何の用」
「あっ、いや、え~と、東狐今日出かけるって言ってなかったかな」
東狐の素直な言葉に一瞬慌てた。
いや、ひっかからないぞぉ…絶対なんかたくらんでんだろ。
フフッ母親をナメんなよ。
「ああ、達也に頼まれてたんだった」
「えっ、達也君になんか頼まれたの?」
「うん、まあね」
「何よ、そのまあねって…」
「ん、父ちゃんの言い付け。そろそろしないとね」
…東狐はそう言うと、勉強机にあった勾玉のピアスを着けると、
着替えを持って猫の孟知と一緒に部屋を出て行った。
そっか、私も後少しなんだね京吾…
普通のお母さんだったらよかったかな。
玄関先から、
「行くぞ、孟知。行ってくるね母ちゃん」
そう、声が聞こえた。
私はいってらっしゃいと東孤に応える。
10歳の我が子が遠くに感じた。
始まるんだね…