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かいごさぶらい
かいごさぶらい
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かい<上>ただひたすら母にさぶらう

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6時半、目覚ましが鳴った。私は「パブロフの犬」状態であるから、瞬時に反応、目覚める。ふと、横をみると、いつの間にか、母が私の寝床へ入っており、スヤスヤと気持ちよさそうに、眠っている。その寝顔は本当に、安心しきった、安らかなものである。90うん歳と50うん歳の親子で「添い寝」だ。

起き上がった、私の気配に、母が気づき。

「おか~さん、もう、おきるのん?」と母。(私は、母の母になったようだ)。

「うん、ご飯や、お茶の用意せんとあかんからなあ」

「ありがとうございます」ペコリと頭を下げる母。

「お袋ちゃん、まだ、早いから、ゆっくり寝ときや~」

「はい、もうちょっとねさしてもらいます」

「にいちゃん、おしっこー」と母が。

「はいはい、行こかあ」私は急いで、両手を差し出す。

「にいちゃん、かしこいな~」が、母の口癖だ。

「そうでもないよ~」(本当にそうでもない)と私。

「べんじょ、どこですか?」

「直ぐ、そこやでぇ」母を手摺りに掴まらせ。

「コシがな~、イタいねん、なんでやろう」

「お袋ちゃんの腰な、折れてるからやでぇ」

「だれが、おったんやっー!」(何時ものことだが、これには返事の仕様がない)。母は過去に二回、腰を圧迫骨折しているのだ(骨粗鬆症だそうだ)。





   「わたしを、し(死)なせるつもりやろー!」

2005/4/11(月) 午後 0:35
某月某日 桜満開。いい日和だ。親子二人だけの日曜日。夕食も終わり、母は何よりも大切なティシュペーパーを一枚一枚取り出し、丁寧に折り畳んで積み上げる、お仕事に没頭。この間に私は自室でパソコンのメールをチェック。それが、終わって母のもとへ。

「ひとがよんでんのに、へんじもせんでぇ!」と、母は何時もこう言う。

「ご免、ごめん、聞こえへんかったんやっ!」

「もう、イエかえろう~」と母。

「ここが、お袋ちゃんの家やんか?」

「まえのイエに、かえりたいんやんか~、ここしらんとこやっ、はよかえりたいねん」私は、何時ものように、このマンションに来た経緯を何度も繰り返し、母に聞かせる。

「ほんだらなぁ~、あんた、ここにいときっ、わたしひとりでかえるからっ!」と、母は何時もそう答えるのだ。

「お袋ちゃんと僕は親子やろ~、明日学校(デイケアの施設のこと)やしぃ、もう、遅いしぃ、ここで一緒に泊まろ~な」

「おやこっー!、あんたとわたしぃ、おやこちゃうでぇー」と、眉間にシワを寄せ、怪訝そうに私を見上げる母。

「何ゆうてんの~、お袋ちゃんと僕は親子やんか、お袋ちゃん、僕産んだん忘れたんか?」

「わたしがあんたうんだっ!、うんでないわー!」母が、姉、私、妹、弟、の四人の子供を産でいることを、訥々と説明する。

「あんたはなー、わたしをイエにかえらせんために、そんなことゆ~うてんねんやろ!」

「わたしを、し(死)なせるつもりやろーっ!」お袋ちゃん、百まで生きてや、と私は心の中で思うのである。




 「あんたが、ほったんちゃうか~」入れ歯、その(1)

2005/4/13(水) 午後 0:41
某月某日 母は、総入れ歯である。もう寝る時間だ。私は、何時ものように、母の入れ歯を漬けておこうと、顔を洗っている母に。

「お袋ちゃん、入れ歯だしてや、洗っとくからなっ」

「ふ~ん、イレバあらうんか?」

「そうや、綺麗にしとかな、なっ」母は、上の入れ歯を出したが、下の入れ歯が無い。

「お袋ちゃん、下はどうしたん?」

「しらんで~」私は、母が何時も座っている、座椅子付近を捜し回ったが、結局、見つからなかった。

「おかしいなあ、お袋ちゃん、入れ歯何処にやったん?」

「ないか~」と母。

「あれへんで~、晩御飯の時あったよなあ」と、私が尋ねる。

「あったかな~」と母。

「ご飯食べてるとき、あったでぇ」と私。

「わかれへんわ~」と母。

「もう~ねむたいねん」と母。

「そやけど、歯、なかったら困るやんかあ」と私が言うと。

「あんたが、ほったんちゃうか、はよ、ねさしてーっ!」はい、分かりました。(私がほったのでしょう)油断した、私の落ち度だ。下の入れ歯は結局見つからず、その後二週間ほどかけて、新しく造りなおすことになった。この時点で私は「人間(失礼、私)がいかにアホか」を思い知らされることを、母に教わることになる。人間(またまた失礼、私)は同じ失敗を何度も繰り返す、阿呆なのだ。




 「わたしは、しらんゆうてるやろー!」入れ歯、その(2)

2005/4/14(木) 午後 1:07
某月某日 母の下の入れ歯が出来上がって1ヶ月余り。用心はしていたのだが。朝食が終わった、その時。

「あれっ!、お袋ちゃん、下の入れ歯は?ちょっと口、あ~んしてみぃ」(しまったー)と、心の中で叫ぶ私。

「あ~ん」母は悠然としている。

「無いやんか!、入れ歯どうしたん?」

「はじめから、ないで~」と、母。泰然自若。私もこうありたい。

「そんなこと、ないやろ~」(トーンダウンした私の声だ)勝負はもう着いたのだ。

「うち、しらんっ!」と、母はきっぱり言う。そう言えば、昨晩は入れ歯をしたまま、母は就寝したのだ。私は、内心、しまった、と思ったが、時すでに遅し。

「お袋ちゃん、入れ歯ハズして、どこかへ置いたんちゃうかな~」(諦めの悪い私の呟き)。

「そんなこと、せ~へん」座椅子に、ゆったりもたれ掛かり母が仰る。私は、慌てて、母の寝床や、母が手の届きそうな、衣装ケースや箪笥の抽出し、ゴミ入れなどを捜し回った。

「えらいこっちゃ~、どこにも無いわ~」

「わたしは、しらんいうてるやろーっ!」ウロウロする私を母が一喝した。

過去に、衣装ケースや箪笥の抽出し、寝床の敷布団の下、ゴミ入れの中、等から見つかったケースが幾度もあった。いずれも、ティシュペーパーに幾重にもくるまれて見つかっているのだ。一度は、マンションのゴミ集積所でゴミ袋をヒックリ返して見つけたこともあった。それらの経験は何の役にも立たなかった。結局、下の入れ歯は見つからず、また、造り直しである。新しく入れ歯を造るためには、前回造ってから、6ヶ月以上経っていないと、保険が適用されない。私のちょっとした油断が招いたものだ。





 「だれかが、もっていったんちゃうか~」入れ歯,その(3)

2005/4/15(金) 午後 3:01
某月某日 過去二度も油断したため、母の入れ歯には十二分に注意していた。しかし、それにも限界があると言うことと「人間(またまた失礼、私だけです)て阿呆やな~」と、何度も教わることになった。母がデイから帰って来るのを待っていた。デイケアの送迎車から。

「あーっにいちゃんやっ!」と、笑顔でご機嫌よく帰ってきた母。その笑顔が何時もと少し違うような気がした。私は、もしや、と思い、送迎車のドアを開けているヘルパーさんに。

「すいません、母が入れ歯をしてないようなんですけど~」