かい<上>ただひたすら母にさぶらう
「にいちゃん、スキや!」と母が、ニッコリする。今日も元気だ。文字通り叩き起こされた私だが、痛さを感じたことはない。
「いったても、ええよ~!」
2005/3/28(月) 午後 0:44
某月某日 先日、区役所の介護保険係りから、母の平成00年度介護認定の結果による、新しい保険証が届いた。結果は昨年と同様「要介護度5」であった。
「にいちゃん、それ、なんや?!」母は、私の一挙手一投足を見ている。母と私は一心同体なのか?。
「うん、これか?お袋ちゃんの通信簿やで~」
「なんてかいてあんのん?」
「お袋ちゃん、毎日な~休まんと学校行ってるやろ~」
「その、成績が書いてあんねんで~、良かったな、お袋ちゃん、去年、一日も休まんと学校行ったからな、先生やヘルパーさんが、誉めてくれてな~、今年も学校に来てもええよっ、て書いてあるんやで~」
「ふ~ん、そんなことかいたあんの、ほんだら、ことしもがっこういかなあかんのか?」
「そらそ~やろ、せっかく、来て下さい、て言うたはんねんから」
「がっこうで、なにすんのん?」
「お袋ちゃんの、したいこと、したらええんやで~」
「なにもしたないっ!」
「毎日行ってるやんか~」
「う~ん、いったことない、しらん!」
「お袋ちゃん、この唄、知ってるやろっ」
「どんなウタや~」
「♪カーラース、なぜ泣くの、カラスは、や~ま~にぃ~」
「あーっ、それしってるぅ~」
「そうやろう、学校行ったら、お袋ちゃんの知ってる好きな歌、唄わしてくれるねんでぇ」
「そうかいな、それやったら、いったても、ええわ!」と、母は嬉しそうにニッコリ笑った。いい笑顔だ。その後母は「にいちゃんも、いっしょかー?」と何度も聞くのだ。「当たり前や、僕も一緒に行くで~」と私も何度も同じ返事をするのだ。
「オムツやてぇ!、わたしをバカにしてんのんかっ!」
2005/3/29(火) 午後 2:48
某月某日 今朝、母が、ちょっと、おトイレで粗相をした。
「あっーお袋ちゃん、ちょっと待って、汚れたからオムツ替えよ、なっ!」
「オムツゥ!」母が、キィッ、と私を睨んだ。
「そうや、ほら、ここ汚れたやろう~!」私は、失言に気づかず。
「だれがオムツなんかすんの!、わたしは、あかちゃん、ちゃうでー!!」母は本気で怒っておりました。ここでようやく、私は、母が私を睨んだ訳が。
「オムツやてぇー!、わたしをバカにしてんのんかっー!」
「ご免、ごめん、パンツや~」私は頭をさげて謝った。
「あたりまえやっ!、わたしはオムツなんかしてへんでっー!」(はい、お袋ちゃん、分かった、ご免)言葉一つ、難しいのだ。配慮に欠けた。
《2005年4月》
「あんたのみっ!」
2005/4/1(金) 午前 10:00
某月某日 10年以上前、母は心臓の疾患で何度か入院した。このため、朝と夜の二回、薬を飲まなければならない。最近は、どう言うわけか判然としないが、素直に薬を飲んでくれない。今日も今日とて、、、朝食がおわり。
「さあ~お袋ちゃん、薬飲もうか?」
「う~ん、クスリ~」と、まるで、気のないお返事だ。
「飲んどかんと、心臓や咳が治れへんで、風邪の予防もあるしな」と、私はゆっくり説得にかかる。
「カゼひーてないっ!」と母。
「そやけど、咳するやろ~?」と私。母は喉に持病がある。このため、毎日、カラ咳をしているのだ。
「セキィ、とめんのんか~?」
「そうやっ、昨日の晩も、お袋ちゃん、咳しとったやろ~」
「してへんわー!」
「したらあかんから、飲むねんでぇ」お湯をコップに淹れ、錠剤が五つ入った薬を母の目の前に出し。
「ほ~ら、0000さん、て書いてあるやろ~」と、母の名前が書かれた薬袋を見せる。
「病院の00先生が、お袋ちゃんの為に、ちゃ~んと、こうして、作ってくれてはんねんで~」五つの錠剤が入った薬袋を見た母は。
「こんなよ~けのむのん?」と、うんざりした表情。そして一言。
「こんな、よーけいらんっ!」と、キッパリ。
「これ飲んだらな~、風邪も治るし、咳もとまるんやで~」猫なで声で。
「な~、これなんか、小さいやろ~、よ~効くねんで」と私は必死で、錠剤をつまんで、母の口元へ持っていく。母は、口を閉じて、いやいや、をする。そして、キレるのだ。
「あんたのみぃーっ!」思わず「はい!」と返事をさせられるような迫力だが。私も、この侭で引き下がる訳にはいかないのだ。時間を掛けて、五つの錠剤を飲ませたころに、デイケアの送迎車が来る。私は、これで朝の一仕事を終えるのだ。
「あれ、だれ?、ここどこや~?」
2005/4/4(月) 午後 1:23
某月某日 週に2回くらい、夕食後の母と私は、このような会話をしている。
母は、夕食のおかずを少し残したとき、必ず、ティシュを広げ、残ったおかずをその上に載せていくのだ。もくもくと小一時間ほどかけて、移し、それを綺麗に折り畳んで、幾重にもティシュでくるみ、必ず私に、こう言う。
「にいちゃん、できたけどな~、なんかむすぶヒモないかな~」
「うん、それ、どうするん?」と、私は何時も聞く。
「おくるねんやんか~、そんなこともしらんのかいな~」
「誰に、送るんや?」
「みんなに、おくらなあかんやんか~」
「そうかあ~」やっぱり、と私。私は、あえて「皆んな!」が誰なのかは、問わない。
「輪ゴムやったらあるから、それで括ったらどうやっ!」
「ワゴムでくくれるかな~?」
「ほ~ら、こうして、二重にして括ったらええやんかあ~」と、一つつまんでやって見せる。
「ふ~ん、ちゃんと、おくってや~」母はそれを見て、納得する。この辺りから、話は少し横道にそれる。母がテレビの画面に反応するのだ。
「このひと、どこのひとや?」と、母がテレビの画面を指さす。
「東京の人ちゃうか?」
「ここどこや?」
「東京やろ~」
「わたしみて、わろてるわ~」
「そうや、えらい年いったお婆ちゃんが見てるな~!思う~て笑ろたはんねんで~」
「ほんまや、はっはははーっ!」何の屈託もなく笑う母。
「あれ、だれや?」テレビの画面は、母の言葉に追いつかずに、ドンドン変わっていく。
「コマーシャルやから、分かれへんわ」
「どこやのんここ?」母が、眠くなるまで、母がテレビの画面を見続けている限り、この会話は終わらないのだ。そんな日は(今日は機嫌良~寝てくれるやろ~)と私は思うのだ。
「だれが、おったんっ!」
2005/4/7(木) 午前 10:20
某月某日 ようやく春らしくなり、母の夜中の徘徊も少し鈍ってきたような気がする。この日はおトイレに2~3回。誰かが、追いかけてきたと言うことで、2回ほど。私は連日剣術の猛稽古で少々疲れていた。最後に起こされたのが、午前4時過ぎ。その直後に、母が四つん這いでゴソゴソと私の寝床へやって来る気配。私は爆睡状態で記憶がない。
作品名:かい<上>ただひたすら母にさぶらう 作家名:かいごさぶらい