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かいごさぶらい
かいごさぶらい
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かい<上>ただひたすら母にさぶらう

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母はこうした、会話中も手を休めることはしない。ティシュペーパーの1箱が全て無くなる時もある。箱の中身が半分くらいになった折を見計らい、声をかけるのが、被害を最小限に食い止めるタイミングである。

「明日な~学校(デイケアでお世話になっている介護施設のことを母は学校と呼んでいる)やから、半分残しときや、学校に持っていかなあかんから、なっ!」兎に角、矛先を変えねばならない。

「あした?、がっこうか~っ?」

「そうやで~、明日、学校行く日やで、疲れたらあかんから、もう仕事やめとき~や」

「もうちょっとなっ」母が少しその気になった。よーし、もう一押しだ。

「ほんだら、もうこれだけにしとき~」丁度ティシュ箱の半分くらいの作業が終わった頃、私は手を伸ばし箱をそ~っと、母の手の届かないところへ、移動させた。ここで諦めてくれると、この日の母のお仕事と、日課が全て終わる。折り畳んで、積みあがったティシュを指差し。

「これ、どうするん?」と、母に尋ねる。

「おそなえするねんやんかー!」はい、そうである。これは、亡き親父の仏壇へお供えする、母手作りの「お饅頭」なのである。断じて、ティシュの固まりでは、ないのだ。




  「わかれへん! 」

2005/3/7(月) 午後 8:50
某月某日 真夜中、この日、母は3回ほどおトイレへ。

「おねさ~ん、おね~さん」母の声。四つん這いで母が私の寝床へやって来た。時間を見ると午前3時過ぎだ。私の顔を見るなり母が。

「はよー、にいちゃん、べんじょ、べんじょー」

「分かった、わかった、お袋ちゃん」母の両手を取り、ゆっくり立ち上がらせる。二度腰を圧迫骨折している母を立ち上がらせるには、少しばかりコツがいる。両手を私の肩につかまらせ、私は両手で母の腰を支え持ち、母の腰に負担が掛からないように持ち上げるのである。母は切迫している。(抱き合うような格好になる)。

「なにしてんのー、にいちゃん、はよう、してーなー」

「お袋ちゃん、慌てんでもええから、大丈夫やで~!」ほぼ毎日経験していることだから、それを踏まえて対処すれば良い。私の頭の経験回路がそう言っている。先日来より、母のトイレでの粗相が増えていることも織り込み済みだ。おしっこと、うんち、では便座に座らせるときの位置が微妙に異なるからである。

「はい、行くよ、ええか~、間に合うよ、心配せんでもえ~からなあ」

「もう、でそうやねん!」

「もうすぐやから、おしっこか、うんちか」私の経験則が、思わずそう言わしめた。すると、母が怒鳴った。

「わかれへんっ!」

「うんーっ!?」私は思わず、ツバを飲み込んだ。母の言う通りだ。何が出てくるかは、分からないのだ。私は、また一つ経験を積んだ。母は、かくして、私を教育してくれるのである。まだまだ、勉強が足りない。




   「このひと、おかしいんとちがうか?なーっ、にいちゃん!」

2005/3/9(水) 午後 0:55
某月某日 今日は、月に一度の母の診察日である。自宅から徒歩で3分(母にすれば、2回は休まなければならない距離)の20年近く通っている診療所へ行く日。

「にいちゃん、ここどこ?なにすんの~、これから~」と何時も聞く母。

「悪いとこないか、診てもらいに来たんやでぇ」

「00さ~ん、こんにちは、お兄ちゃんと一緒、ええね~」と顔見知りの看護師さんの、何時もの明るい声。

「うん、にいちゃんといっしょにきてん!」母も笑顔で答える。待つことおよそ30分。

「もうかえろ~」と、何度も言う母をなだめすかして、順番待ち。

「母と私のデコチンとデコチンを合わせて、ベーっ、ベーっ」それに飽きると。母の足の裏のマッサージ。いつしか、母は大欠伸。やがて、、、。

「00さ~ん、6番の診察室へどうぞ」のご案内。

「ねむたいやんかー、どこいくのん?にいちゃん!」

「先生に、お袋ちゃんの身体、診てもらうんやでぇ、早よ行こか~」

「わたし、わるいとこないで~、はよかえろ~な」病院は、私とて、早く帰りたいのだ。

「うん、すぐ済むから、ちょと診てもろてから帰ろ~なっ」

「ほんまに、すぐ、おわんの~」診察室へ、母を。

「はい、00さん。ゆっくりでよろしいよ。腰掛けて下さい」実は、今日は特別の診察日。先生は認知症(痴呆症)の専門医である。

「00さん、これから、この机の上に置いてあるものを、ちょっと覚えてくれるかな~」と、先生は机の上に置かれた四つのもの指差し、母をうながす。

「はい、このハサミをおぼえたらいいんですか?」と母。

「はははっ~、おもしろいこといいはるわ~このひと。なぁ、にいちゃん!」何の屈託もない。

「これ、ハサミやんか、な~にいちゃん?」

「うん、そうやな~」すると、先生は机の抽出しを引き、いままで置いてあった机上の四つの物を抽出しの中へしまいこんだ。

「00さん、いま、何と何があったか分かりますか?。分かったら、ちょっと教えてくれますか?」机上には当然のことながら何もない。

「なにもないやんな~、にいちゃん?」

「いま、あったでしょう、何があったか、思い出せませんか?」と、母の顔をみながら先生が。

「このひと、おかしいんとちがうんか~?なーっ、にいちゃん?」(あほらし~、と言わんばかりの母の表情)。机上には、何もないのだから、母の言うことは正しいのだ。

「はい、結構です」と、先生も一言。待ち時間約40分。診察約3分。まぁ~何時もこんなものである。これで、半日が終わるのである。




「母、家に帰る」

2005/3/11(金) 午後 1:13
某月某日 時計が午後10時を回った。そろそろ、座椅子でうたた寝をしている母を、おトイレへ連れて行き、洗顔し、歯磨きをさせて、寝床へいざなう時間だ。

「お袋ちゃん、お袋ちゃん、もう、寝よか?」

「うん、ここでとまるのん、イエかえりたいっ!」と、母。マンション生活は、母には馴染めないのだ。

「もう、イエかえろう?にいちゃん」

「ここが、お袋ちゃんの家やで」ゆっくり、納得させなければならない。

「ここどこやのんっ!」

「そやからな~、此処が、お袋ちゃんの家やんか~」と、やんわり。

「いやや、こんなとこ、しらん、わたしな~、さびしいねん、はよかえろうな~」

「忘れてしもうたんか、分かった、ほな、家帰ろうか?」これ以上、母を不安にしてはならないと判断。母の表情がそう言っているからだ。私は、母を座椅子から抱き起こし。

「外は寒いからこの服着よな」母にオーバーを着せ、玄関へ、ドアを開け、母の両手を手押し車に捕まらせ、リハビリシューズを履かせる。マンションの廊下に出る。エレベーターに乗せ1階のボタンを押し、階下へ降りる。1階のエントランスをぐるりと一回りして、再びエレベーターの前に戻る。

「さあ~、お袋ちゃん、これに乗って、家帰ろう~か!」

「これにのったら、イエにかえれるのん?」母の表情が明るくなる。

「うん、そうやで、早よ帰って、早よ寝よな、明日、学校やからな」

「あした、がっこうか?」