小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

パンドラの鍵

INDEX|99ページ/119ページ|

次のページ前のページ
 
 
早苗はその質問にすぐ答えず、肉付きのいい体をソファーから起こ
すと窓際へと歩いていった。そしてガラスに顔をくっつけるように
して、外の景色を眺めていた。

しかし外は激しい雨のせいで視界が悪く、ガラスの上を滝のように
流れる雨しか、貴之は見ることが出来なかったが……。

時を刻む時計の音が、やけに大きい。

「人間じゃない。奥様はその言葉を繰り返していたわ。その言葉に
どんな意味がこめられているのかは、私にもよく分からない。誰の
ことなのかも……。でも一つおかしなことがあったわ」

「おかしなこと?」

「そうよ。事件当日は、私も動転していて分からなかったんだけど」

「何なんですか、それは?」

「それは、そうね。私が刑事さんに連れられて、あの家で嫌々現場
検証を受けていた時だったわ。奥様が倒れていたあの部屋が……」

そこまで言って、早苗は急に黙り込んだ。

「その部屋がどうかしたんですか?」

と、貴之が促す。早苗が見つめているのは今、この瞬間ではなかっ
た。過去だった。八年前の過去……。

「私はあの部屋に入るのを禁じられていたの」

「なぜ、その部屋に何が……」

「奥様が言っていたわ。『あそこの部屋は、彼の研究室だから近づ
かないで』と。実際、中に入ろうにも鍵が二重三重に掛けられてい
て、とてもじゃないけど忍び込めない状態だった。だから私はあの
日まで、そこは研究室だと信じていたの」

「でも本当はそうじゃなかった」

貴之が続ける。
作品名:パンドラの鍵 作家名:まゆ