パンドラの鍵
「そう、その通りよ。そこは研究室なんかじゃなかった。誰かが住
んでいたの……。奥様でも、坊ちゃんでもなく、もちろん旦那様で
もない誰かが」
「誰かが?」
貴之の脳裏に沙織の姿が横切る。
沙織はそこにいたのだろうか………。
「部屋の中には全て揃っていたわ。生活できるぐらいに、キッチン
もトイレも浴室も何もかも……。だけど、窓がなかったの。まるで
地下にある留置所のようだった」
「そんな所に誰かが、閉じこめられていたって言うんですか?」
すぐ側で雷が落雷したのだろう、血も凍るような猛獣の咆吼が部屋
中に響き渡った。
居間の照明が、二人をまるでからかっているかのように点滅する。
「そうよ。――誰かがいたの。二人を殺したのは、その部屋に閉じ
こめられていた人物よ。それ以外に考えられない!」
早苗はそう言いきると、突然両手で顔を覆った。
沙織が殺したと言うのか。
あの無邪気な沙織が……。
そんなはずが――。
しかし、貴之はその部屋に閉じ込められていた誰かは沙織だと、直
感的に確信していた。
これで話しの辻褄は合う。
沙織は有馬の家にいたのだ。
それも、屋敷の中の開かずの間に――。