パンドラの鍵
正直言って、本当はすごく怖かったのだ。
出来るならばそんなところへは行きたくなかった。
でも、早苗には分かっていた。
そこに奥様がいるんだってことが……。
そして実際、その中に彼女は倒れ込んでいた。
「早苗さん、早苗さんなの…」
加奈子は目だけを動かして、早苗の名を呼んだ。
「奥様っ」
早苗はそう叫ぶと、加奈子の側に駆け寄ろうとした。
「だめよ! こっちへ来ては……、お願いだから、そこにいて」
「どうして、だって奥様が……」
「お願い!」
加奈子の訴えは切実だった。
早苗はしばらく黙り込んでいたが、
「えぇ、わかりました」
と、涙ながらに頷くしか出来なかった。
「ありがとう…」
加奈子は床に倒れ込んだまま、力無く微笑んだ。そして、
「雅弘は……」
と、口を動かした。