パンドラの鍵
しかし、そうではないと早苗の六感が告げていた。
早苗は一つ一つの部屋を覗き込みながら、どこかに奥様の姿がない
かと目を凝らした。
「誰っ、誰かいるの!」
突然、廊下の一番突き当たりのドアがキーと軋みながらわずかに開
き、早苗は目を見開いた。
徐々に暗くなっていく廊下。
早苗は怖いもの見たさで、そろそろとその部屋に向かって近づいて
いった。
ドアまであと1メートルという所だろうか、早苗はドアの隙間から
オルゴールが流れて来るのに気づき、一瞬足を止めた。
この曲は確か……。
ショパンの“別れの曲”。
そのもの悲しくも旋律なメロディーが、耳元へと流れ込んでくる。
早苗はごくりと生唾を飲み込むと、室内を覗き込んだ。
カーテンが窓も開いていないのにゆらゆらと揺らめいていた。そし
て、その側にうずくまっている小柄な人影。
……影はピクリとも微動だにしない。
「雅弘君なの…、そうよね。こんな所で何をしているの?」
普段は物置として使われている一室。
こんな場所に用はないはずだが……。
早苗はよくできた蝋人形のような人影と距離を縮めていった。
途中、がらくたに何度も躓きそうになりながら――。
早苗は段ボールの上にランドセルが無造作に置かれているのを見て、
この人影が雅弘君だと確信した。
「ねぇ、お母さんを知らないかな…」
そう言いながら何気に肩を揺さぶった瞬間、早苗を待っていたのは
――。