パンドラの鍵
玄関の他に家の中へ入る手段はないかと探すために。
けれどもこういう時に限って、どの窓にもきっちりと錠が掛かって
おり、早苗は為すすべもなく庭の中で立ちつくすしか出来なかった。どこか、どこかないの。早苗の目に二階のベランダ越しに、窓が開いているのが入る。そして、その前にある程良い高さの木……。早苗はしばらくその木をぼーっと眺めていたが、やがて決意するとスカートの裾をたくし上げ、なりふり構わずよじ登り始めた。早苗の体重で木の枝がみしみしと軋み、早苗は何度となく転がり落ちそうになった。突き出た棘が皮膚を傷つける。
早苗はなんとかベランダ付近まで辿り着くと、えいっと気合いを入
れてベランダに飛び移った。
冷や汗が額から流れ落ちる。
早苗は手すりにもたれかかると、はぁはぁと荒い息をついた。
そして、窓から家の中に忍び込んだ……。
「奥様――、何処におられるのですか――?」
二階の寝室は薄暗く、早苗は叫びながら辺りを見渡した。
だが返事は聞こえず、家の中には人がいる気配さえなかった。
早苗の耳には自分の足音以外の音は聞こえなかった。
「奥様――」
妙に静まり返った家……。
早苗は恐る恐る廊下に出ると、物音でもしないかと耳を澄ませた。
その瞬間、背後でバターンと大きな音をたててドアが閉まった。
思わず息を飲む早苗。
風よ、風のせいよ。
早苗はそう自分に言い聞かせると、廊下を進み始めた。
もしかしたら、どこかへ出かけたのかもしれない。
出来るならば早苗はそう思いたかった。