パンドラの鍵
「はい、ここにいるって言ってたんですけど」
「ここに?」
貴之は椅子から立ち上ると、彼女のほうへと歩いていった。
「有馬、有馬宗一郎っていうんですけど、知りません?」
「有馬……、有馬ねぇ」
「確か、地球物理とかいうのを教えてるって」
「地球物理、それだったら理学部だよ。ここにはいないと思うけど」
「えっ、でも、この部屋Y棟のY301ですよね」
「そう、だけど…」
「おかしいなぁ」
沙織はメモ用紙を眺めながら首を傾げた。そして、
「確かにここなんですけど。…お父さん間違えたのかしら」
と笑いながら、紙をひらひらさせた。
「ちょっと見せてくれる?」
沙織は頷くと、貴之にメモを手渡した。
「Y301、確かにここだね」
「そうでしょ」