パンドラの鍵
商店街までの道のりを半分ほど来ただろうか。
早苗は肝心の財布を忘れてきてしまったことに気づき、慌てて来た
道を戻らなくてはならなかった。
そんな早苗の頭上で、カラスはまるで何かを伝えたいかのように、
カァーカァーと異常なまでに騒ぎたてていた……。
あれっ、どうしたのかしら……。
早苗は玄関のドアを開けようとして首を傾げた。
鍵は掛けなかったはずなのに。
奥様が掛けたのだろうか?
「奥様――、早苗です。鍵を開けてもらえませんか――。財布を忘
れてしまって――」
早苗はインターホンを何度も押しながら、大声を張り上げた。
だが、おかしなことに返事はいつまでたっても返ってはこなかった。
「奥様――、奥様――」
自分の声だけが無意味にこだましている。
屋根の上には、さっきのカラス達が晩餐会でも開いているのか、尋
常ではない様子で鳴き喚いていた。
早苗は妙な胸騒ぎを感じた……。
何かあったのだ。
それも奥様の身に、何かすごく大変なことが。
早苗はそう思うと、脇目もふらず庭の中に飛び込んだ。