パンドラの鍵
「奥様…」
「どうしたの?」
「今から夕食の買い物に行って来ますので、留守番お願いしますね」
「留守番ね、わかったわ」
揺り椅子に腰掛けて読書に興じていた有馬加奈子は、本から顔を上
げるとにっこり微笑んだ。
「いつもいつも悪いわね。早苗さん」
「いいえ、これが私の仕事ですから」
「そう…」
「じゃあ、行って来ますね」
「えぇ、お願いします」
早苗は買い物袋を手に取ると家を跡にした。ここまでは普段となん
の変わりもなかった。
異常なくらいに気温が低いこと以外は……。
早苗は季節はずれのマフラーに首をすぼめると、商店街に向かって
歩き始めた。
頭の中で今夜の献立を考えながら。
カラスが妙にうるさかった。
空を見上げると、信じられないほどのカラスが群をなして飛び交っ
ていた。